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記事番号:T00082434
2019年3月13日15:49

 専利法(特許法)は、発明創作を保護し、産業技術の発展を促進することを目的とする最も重要な知的財産法の一つです。そのため、特許審査をしっかりと行わなければ、産業に対する打撃は計り知れないものとなってしまいます。

 台湾では実用新案(新型専利)については実質審査を行わないため、産業界を混乱させています。また、発明特許(発明専利)については審査そのものが甘いため、結果として、発明創作を保護するという特許法の本質を損なっているのが現状です。

アレルギー緩和の特許

 蕭興仁氏は2004年9月に「アレルギー症状の治療または緩和に関わる薬物組合物」により発明特許を出願しました。この発明は審査、再審査を経た後に11年4月、24年までの特許を取得しました。

 発明者は本件特許について、次のように主張しています。

 「弱酸性の状況下では、水素イオンがヒスタミンの生理作用に影響し、ヒスチジンなどの形態となるため、アレルギー反応を起こさなくなる。つまり水素イオンには症状緩和の効果が認められる」「係争特許の症状緩和手段は体液のpH値を下げることにあるが、『水素イオン』には血液のpH値を下げる作用がある」。そのため、有機カルボン酸を投与することで、アレルギー症状の治療または緩和の効果を得ることができる。

 また、発明者はその理論と効果を証明するために、特許説明書の中で100件の実験(実施例)を提供しました。その結果得られた特許範囲は次のようなものでした。

 「一つのアレルギー症状の治療または緩和を行う薬物であり、クエン酸、乳酸、および酸性塩の活性成分を含み、かつその有効成分比は0.06~100重量%であり、活性成分比が100重量%に満たない場合は別途薬学上認められているキャリアを含む。同キャリアは希釈剤、キャリア、甘味料、香料、生薬、食品、その他栄養食品などを含む」。

統一ヨーグルトに侵害疑い

 13年初め、特許権者は統一企業(ユニプレジデント)の「統一LP-33機能性ヨーグルト」が同特許権を侵害していることを発見したため、400万台湾元(約1,400万円)の賠償と、侵害製品の販売の停止、および侵害製品と設備の破棄を求め、知的財産裁判所に対して訴訟を提起しました。

 知的財産裁判所は14年8月、次のような理由により原告の請求を棄却しました。

1. 本件特許は薬物に関わるものであるが、被告の製品は一つの「アレルギー体質を調整する補助」的な健康食品であり、同特許における「アレルギー症状の治療または緩和」とは異なる

2. 本件特許の有効成分は、クエン酸、乳酸、および酸性塩であるが、被告製品の有効成分は「100億個以上の総乳酸菌(Streptococcus thermophiles菌、Lactobacillus paracasei菌、Lactobacillus bulgaricus菌)」である。確かに乳酸菌は乳酸を発生させる可能性があるが、原告は被告製品内における乳酸の量を証明していないため、被告製品が同特許範囲内であることを証明できていない

 原告はこの判決を不服とし同裁判所第二審に対して控訴を行いましたが、裁判所は16年7月に、一審の判決を支持した他、特許そのものを無効とする判決を下しました。

特許無効の判断

 知的財産裁判所第二審が同特許を無効と判断したのは、裁判所の独自の判断ではなく、知的財産局による14年10月27日付の特許無効審判の審定結果によるものでした。同審定結果は次のように述べていました。

1. 同特許説明書の記載は、「明確かつ十分な開示」という要求を満たしていないため、発明に属する技術分野において通常知識を持つ者が、その内容を十分に理解し実施することができない

2. 同特許請求の範囲には、推測的内容が含まれているため、その効果を確定することは難しく、また出願時に開示された範囲を超えたものとなっているため、発明に関わる説明を支持するものとなっていない

3. 同特許は出願に際して100件の実施例を提供しているが、その一つ一つを精査したところ、係争特許説明書の提供する薬理試験の結果が示すデータには、科学的な意義がないばかりか、有機カルボン酸にアレルギー症状の治療または緩和の効果があることが全く示されていない

 原告は知的財産裁判所第二審の判決も不服として最高裁判所に上告しましたが、同裁判所は19年2月に訴えを退ける判決を下しました。

 また、本件に関しては、民事訴訟の他、特許無効審判の審定について経済部の15年7月の訴願決定、および知的財産裁判所の16年3月の行政判決も、別途下されています。

効果なしでも特許審査通過?

 台湾では強制的に弁護士が代理を行わなければならない一般制度はありません。そのため、本件について、特許権者は弁護士に委任する必要はありませんでした。しかし上場企業である被告は、全ての審級を弁護士に委任して処理しました。

 今回の案件全体を通してみると、一つの大きな疑問が残ります。特許説明書が「データには、科学的な意義がないばかりか、有機カルボン酸にアレルギー症状の治療または緩和の効果があることが全く示されていない」ものであることを、なぜ当時の審査官らは発見できなかったのでしょう?

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw
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