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第261回 外国企業による刑事告訴


ニュース 法律 作成日:2019年1月23日_記事番号:T00081681

産業時事の法律講座

第261回 外国企業による刑事告訴

 2018年8月以前、台湾における外国企業は「権利能力なし」、すなわち「法律上の人格がない」とされていたことは、多くの方がご存じないと思います。権利能力がないわけですから、もちろん訴訟の提起もできません。外国企業が法律上の「人」となるには、政府に対して「認許」を申請しなければなりませんでした。また、民事裁判においては認許を受けていない外国企業でも、「法人ではない団体」の立場で訴訟を提起することはできましたが、法人としてはできませんでした。

 実は、このような規定はかなり前から多くの批判を受けてきましたが、政府は一向に問題を解決しようとはしませんでした。そのため、長い間、認許を受けていない外国企業が刑事告訴を提起した場合、それが親告罪の事件であるときは、検察官は「中華民国20年(1931年)司法院院字第533号解釈」により不起訴処分とし、その他の事件については、告訴人を「告発人」として処理していました。しかし、告発人の身分では、検察官の処分に不服があってもそれに「再議(異議)」を唱えることができません。また、もし自訴(自ら原告となり刑事裁判を提起すること)を提起しても、裁判所は「自訴不受理」の判決を下すことしかできませんでした。しかし、このような状況は最近徐々に緩和されてきているようです。

元大銀行を「自訴」

 台湾政府の認許を受けていないサモア籍企業、Time Value Limited(以下「タイム社」)は、14年9月に元大商業銀行と金融商品の取引契約を締結し、元大銀行の営業員に金融商品の売買を委託しました。しかし、元大銀行はDKO通貨オプション付き金融商品を購入したことで、235万米ドルの損失を出してしまいました。そのためタイム社は、▽同商品はハイリスクであるにもかかわらず、その損益の計算公式、連結幅、およびリスクそのものに至るまで、説明書には何も記載されていなかった▽このような商品は、国際金融取引に関するリスクの概念を知る者であれば、その購入に同意はしない▽しかし元大銀行は投資の対象を十分に公開せず、また各種リスクを分析しなかったばかりか、各取引を行う前にリスク告知書の交付も行っていない▽すなわち、元大銀行はタイム社の委任した任務に反した行為を行った▽また、取引結果はタイム社に多大な損失を与えたにもかかわらず、元大銀行は利益を得ている──などの理由から、弁護士を代理人として、元大銀行の営業員を背任、詐欺、文書偽造などの罪で「自訴」しました。

不受理不服も控訴棄却

 台北地方裁判所は審理の後、法律によれば犯罪の被害者は自訴を提起できるが、タイム社は外国企業であり、また認許も受けていないため、法律上の「人」ではなく、自訴を提起する資格はないと判断し、17年9月に「自訴不受理」の判決を下しました。

 この判決を不服としたタイム社は、台湾高等裁判所に控訴しましたが、同裁判所は17年12月に次のような理由により、控訴を棄却する判決を下しました。

 最高裁判所の見解によれば、「外国企業の法律上の権利、義務は、法に別途規定がある場合を除き、認許を経ることで、中華民国企業と相同となる」という公司法(会社法)第375条の規定に基づき、外国企業は認許を受けることではじめて台湾国内企業と相同の地位を得ることができる。言い換えれば、認許を受けていないものについては台湾では「法人」ではない。そのため、公平取引法、著作権法、商標法のような特別規定が設けられている場合を除き、自訴を提起できない。

 台湾の刑事訴訟制度は「国家追訴の原則」を採択しているため、「公訴」プロセスがその原則となっており、その例外として「自訴」も可能となっている。認許を受けていない外国企業は自訴を提起することはできなくとも、告発、告訴などにより、公訴のプロセスを発動し、犯罪を追訴する目的を果たせる現状に鑑みれば、外国企業の刑事プロセス上の権益に重大な影響が発生しているとは考えにくい。

「現状で重大な影響なし」

 タイム社は最高裁判所に上告しましたが、18年7月に棄却されました。最高裁は判決で、「認許を受けていない外国企業は自訴を提起できない」という点を繰り返し強調する一方で、「認許を受けていない外国企業は自訴を提起できなくとも、告発、告訴などにより、公訴のプロセスを発動し、犯罪を追訴する目的を果たせる現状に鑑みれば、外国企業の刑事プロセス上の権益に、重大な影響が発生しているとは考えにくい」という点について理解を示しました。つまり最高裁判所は「認許を受けていない外国企業でも刑事告訴を提起できる」と判断したに等しいことになります。

 台湾の裁判所の見解がどれほど時代に沿ったものとなっていないかはともかく、立法府である「立法院」は18年に公司法改正案を採択し、同法第4条を「外国企業は法令の定める範囲内において中華民国企業と同一の権利を有する」と改正し、18年11月1日より施行されました。この法改正により、外国企業は法人としての完全な人格を持ったと考えられていますが、政府と裁判所も同様の見解を持っているのかどうかについては今後の動向を注目して判断しなければなりません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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