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第276回 商標権を侵害したと見なす行為


ニュース 法律 作成日:2019年9月11日_記事番号:T00085705

産業時事の法律講座

第276回 商標権を侵害したと見なす行為

 商品、役務(法律用語:以下「サービス」)に対して、他者の登録商標を使用する行為は商標権の侵害となります。また、他者の著名な登録商標をドメインネームやサイトの名称、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のアカウント名などとして登録または使用することは、「商標権を侵害したと見なす行為」と呼ばれています。

 台湾の最高層ビル、台北101を管理する台北金融大楼股份有限公司(以下、台北101公司)は2000年に知的財産局に対し、「台北101」「Taipei 101」「101設計図」という3つの商標を登録しました。

 出願の際、「台北101」と「Taipei 101」について、「台北」「Taipei」「101」などの文言は専用の範囲に含まれないことを表明していました。また、「101設計図」は、中国の古銭3枚を横に並べた上で、それぞれの中央に空いている穴の形を円形または長方形にすることで、「101」の文字を表現。これらの商標は、百貨店、ショッピングセンター(SC)、服飾品の小売り、ネックレスおよび貴金属の小売りなどのサービスへの使用が指定されました。

「101名品会」で商標登録

 数字科技股份有限公司(以下、数字公司)は14年より「101名品会」商標を登録した他、TWNIC(日本のJPNICに相当する台湾のドメインネーム管理機構)に対してドメインネーム「101vip.com.tw」を登録し、同名称でサイトを設置しました。また、同サイトおよびフェイスブック(FB)などのSNSにおいて「101名品会」グループを立ち上げ、各種革製のバッグ、香水、服飾品、腕時計などの商品の販売を始めました。

 台北101公司は知的財産局に対して、数字公司の登録商標に異議申し立て行い、また知的財産裁判所に対して訴訟を提起し、次のような要求を行いました。

1.被告は「101名品会」をオンラインショップその他類似する総合的な商品の小売り、卸売りサービス、ならびにそれに関連する商業文書および広告に使用してはならず、既に使用している場合はそれを排除しなければならない

2.被告は「101」と相同または近似する文字をドメインネーム、SNSのアカウント名に使用してはならない。また、TWNICに対してドメインネーム「101vip.com.tw」の登録抹消手続きを行わなければならない

 台北101公司の訴えに対して、知的財産裁判所は18年4月16日の判決で次のような判断を下しました。

1.被告は「101名品会」を百貨店、ショッピングセンター、服飾品の小売り、時計の小売りなどのサービス、ならびにそれに関連する商業文書および広告に使用してはならず、既に使用している場合はそれを排除しなければならない

2.被告は「台北101」「TAIPEI 101」と相同または近似する文字をドメインネーム、SNSのアカウント名に使用してはならない。また、TWNICに対してドメインネーム「101vip.com.tw」の登録抹消手続きを行わなければならない

「台北101」など基礎に

 被告が訴訟で行った最も重要な抗弁は、▽原告は商標出願に当たって、「101」については商標権を主張しないことを表明していた▽本件において双方の商標は「101」の部分のみが相同している▽このような状況で、原告は被告が商標権を侵害したと主張できる根拠はない──というものでした。

 これに対し裁判所は判決の中で次のように説明しました。「専用権の範囲に含まれないことの表明」は、商標登録に当たっての一種の行政処置であり、商標権の権利範囲をより明確化する作用があるが、それによって商標権の権利範囲が影響を受け、変わることはなく、「商標はあくまでも登録された文字および(または)図案の全体について商標権を享受することとなる」。そのため、原告は自らが「専用の範囲に含まれないことを表明」した「101」部分に関して単独で権利を主張することはできないが、「台北101」「TAIPEI 101」など、全体としての権利主張はできるため、商標権が侵害されているか否かの比較を行うに当たっては、「台北101」「TAIPEI 101」を基礎としなければならない。

 また、裁判所は嘱託(外部委託)による市場調査を行いました。すると、12.98%の対象者が「101名品会」のホームページを見た際、同ホームページは原告が提供しているものと認識し、20.74%の対象者がドメインネーム「101vip.com.tw」または「101名品会」のSNSを見た際、それらは原告が設置したものと認識する結果となりました。裁判所は、このような割合は「実際上の混交・誤認を発生させる可能性は高い」という評価を下しました。

 一方、被告はドメインネームに関して、「本件はTWNICの『ドメインネーム紛争処理規則』によって判断されるべき」との抗弁を行いました。これに対して裁判所は、同規則は単なる訴訟外紛争解決方法に関する約定にすぎないため、司法上の効力はなく、司法訴訟においては配慮をする必要はないと判断しました。

 同判決中、裁判所は原告の主張する範囲が広過ぎることを理由として、適当な制限を加えていました。その後、原告、被告の双方が共に同判決を不服として控訴したため、同裁判所は19年3月に第二審判決を下しました。

最高裁判断に注目

 第二審判決は、第一審判決の意見、▽「台北101」「TAIPEI 101」などは著名商標であること▽これらの商標と被告の商標とは近似を構成しているため、消費者を混交させること▽被告による登録、使用は悪意のあるものであること──を支持しただけでなく、第一審の判断した範囲は小さ過ぎ、原告の商標権は「オンラインショッピング」にも及ぶなどと判断し、最終的に次のような判断を下しました。

1.被告は「101名品会」をオンラインショップその他類似する総合的な商品の小売り、卸売りサービス、それに関連する商業文書および広告に使用してはならず、既に使用している場合はそれを排除しなければならない

2.被告は「台北101」「TAIPEI 101」と相同または近似する文字をドメインネーム、SNSのアカウント名に使用してはならない。また、TWNICに対してドメインネーム「101vip.com.tw」の登録抹消手続きを行わなければならない

 本件はその後、最高裁に上告されました。最高裁による最終判断は、オンラインショッピング、ドメインネーム、サイト名、SNSのアカウント名など、ビジネスモデル上重要な要素を含んだ判断となるため、各界の注目が集まっています。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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