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第284回 深刻な商標横取り登録問題


ニュース 法律 作成日:2020年1月22日_記事番号:T00088017

産業時事の法律講座

第284回 深刻な商標横取り登録問題

 2019年6月12日の本欄では、中国の「金冠」ブルートゥーススピーカーの商標が台湾で横取り登録され、また台湾の経済部智慧財産局(知的財産局、以下「TIPO」)が同商標の取り消しを拒み続けたことで、中国から輸入された正規版が何度も差し押さえられ、その度に検察が不起訴にしなければならなかった事案をお伝えしました。同横取り商標はその後、19年11月にTIPOによって取り消されました。

 ただ、商標の横取り登録事案において、金冠のような事案はまだ幸せな方と言えます。

 08年12月、スイス企業の欧思藍股份有限公司(AUCERA SA:以下「オ社」)は、商標「BENTLEY」を、家具に対する使用を指定してTIPOに登録を申請し、翌年認められました。

 この商標に対し、英企業の賓利汽車有限公司(BENTLEY MOTORS LIMITED:以下「ベ社」)は14年9月、次のような主張によりTIPOに対して同商標の「登録廃止」申請を提出しました。

1.オ社は、同商標を瑞陶時公司(以下「瑞社」)に対しライセンスしているが、両社の責任者は同一人物で、同一企業であると疑われる。

2.商業調査の結果、台湾北部の市場では、同ブランドの家具は存在しないと判明した。

3.同商標は、登録後3年以上使用されておらず、登録廃止されるべきだ。

統一発票と写真で証明

 べ社の主張に対し、商標権者側は統一発票(公式レシート)と実物の写真を提出した上で、瑞社は14年9月1日と5日に、▽「Bentleyテーブル」▽「Bentleyチェア」▽「Bentley家具」▽「Bentley革ソファ」▽「Bentleyヘッドボード」▽「Bentleyシステムキャビネット」──などの商品を「翡仕公司」に販売したこと、テーブルおよびヘッドボードには「Bentley」のロゴが入っていることを主張しました。TIPOは16年3月、商標権者側の主張を認定し、ベ社の申請を退けました。

 TIPOの判断に対してベ社は、商標権者側の提出した同商標使用の証拠は、商標法の定める「商業取引の習慣に沿ったもので、かつ関連消費者が同標識と商品・役務が商標権者を来源とする、またはその信用によるものとを識別できること」という要件に合致しておらず、商標権者が同商標を商業上で使用している証明にはならないと主張し、訴願および行政訴訟を提起しました。これらの訴えは、全て退けられました。

 ベ社はその後、最高行政法院(最高行政裁判所)に上告を行いました。同裁判所は次のような理由から、18年7月に智慧財産法院(知的財産裁判所)の原判決を破棄する判断を下しました。

1.商標の使用が商品の販売や役務の提供を目的とせず、商業取引行為またはその計画がなく、その使用に際して経済上の意義がない場合、またはその使用行為が客観的に指定商品または役務の来源を表すには足りない場合、実際に使用されているとは言えない。

2.商標権者が提供した商品の写真には日付が記載されておらず、当該商品が登録廃止申請日より前に存在していたこと、統一発票に記載された商品であることを証明できない。また、原判決はベ社の提出した調査報告を認定しなかった理由を説明していない。

廃止命令に5年

 この判決を受けた知的財産裁判所は再度審理を行い、19年3月に判決で、TIPOに対して同商標の登録廃止を命じました。判決からは裁判所が真剣に次の各証拠を調査したとうかがい知ることができます。

1.商標権者が提出した統一発票の日付は、どれも月末日であった。(過去月の発票の最後の1枚を虚偽に発行した疑いがあると暗示している)

2.写真の大型家具の統一発票にしては金額が低過ぎ、市場価格と合っていない。

3.統一発票の枚数が少な過ぎ、発行相手も2社のみで、一般の商業常態とも符合しない。

4.被許諾者から「Bentley」の家具を購入したという証人1人による説明は、「統一発票の枚数が少な過ぎ、一般の商業取引習慣に符合しない」という事実を覆すものではない。

 この判決に対し、商標権者は再度上告しましたが、最高行政裁判所は19年12月に訴えを退ける判断を下しました。

 結果として裁判所は、14年9月のベ社による廃止申請から5年以上の月日をかけ、ようやくTIPOに対する廃止命令を出したことになります。裁判所が商標権者が実際には商標を利用していないと判断した証拠と理由は、ベ社の当時の主張とほぼ同じものでした。

 TIPOが同商標が申請された当時、またはベ社による廃止申請があった際に真剣に審査をしていれば、あるいは知的財産裁判所第一審が詳細に調査をしていれば、ここまで無駄な時間をかけることはなかったでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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