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第288回 模倣品販売の賠償金計算方法


ニュース 法律 作成日:2020年3月25日_記事番号:T00089037

産業時事の法律講座

第288回 模倣品販売の賠償金計算方法

 模倣品の取り締まり政策を見ると、一部の国では「尻の毛まで抜く」ほどの高額な処罰や賠償を課すことで、模倣品による権利侵害を有効に防いでいます。しかし、台湾の裁判所では「正規品の権利者が模倣品によって不当な利益を得ることは避けるべき」との理論から、損害賠償額は相当厳格に認定され、特に特許侵害への損害賠償に関する判断に対して広く批判がなされています。

 一方、商標法と著作権法に関しては、権利侵害への損害額の認定が困難であることに鑑み、数年前に特別規定が設けられました。この制度を有効に利用すれば、台湾での正規品の権利者も、相当程度に高額な賠償金を勝ち取ることができます。今回は、これに関連する二つの案件を見てみましょう。

販売価格の百倍の賠償判決

 まず、一つ目の案件です。陳佑昌(以下「陳」)は2016年9月、インターネット上で「Tosing」ブランドのマイクの模倣品を販売したとして、警察の捜索を受けました。この捜索の際、数百個の海賊版ゲームが内蔵されたニンテンドークラシックミニファミリーコンピュータ(以下、ミニファミコン)の模倣品808台とニンテンドーファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)の模倣品183台が押収されました。

 同案はその後、検察により起訴されましたが、裁判所は大量の押収にも関わらず、18年11月に「簡易判決」により被告を懲役6月に処したため、被告は18万台湾元(約66万円)の罰金を支払えば、刑務所に入らなくても済むことになりました。9万8,000元の不法所得を加えても、27万8,000元の支払いで済みます。検察はもちろん控訴しましたが、同裁判所は19年4月に訴えを退けました。

 その後、任天堂は知的財産法院(知的財産裁判所)に対して民事賠償請求を行いました。同裁判所は19年10月、陳に対して以下の計算方法で算出した合計149万元の損害賠償支払いを命じました。

1.陳が販売したミニファミコン模倣品約30台とファミコン模倣品39台には、それぞれ数十個の任天堂のゲームが内蔵されていることから、「賠償額を斟酌(しんしゃく)し」、ミニファミコンの部分については20万元を、ファミコンの部分については30万元を賠償額とする。

2.陳が販売したミニファミコン模倣品(販売価格890元)とファミコン模倣品(販売価格760元)は、任天堂の商標権をそれぞれ6個侵害している。各商標権の損害額は模倣品の販売価格の100倍とし、合計で(890+760)×100×6=99万元となる。

 なお裁判所は、陳が著作権を侵害しているゲーム機の模倣品を所有していること自体は任天堂の著作権を侵害していないと判断しましたが、これは間違いと言えます。なぜなら、著作権法第87条には「散布することを意図した所有」は著作権の侵害と見なされるとの明文規定があるからです。

在庫品の権利侵害も認定

 次に二つ目の案件です。周于晏(以下「周」)は18年12月、ネット上の販売プラットフォーム「露天」でブレスレット型デバイス「Pokémon GO Plus(以下、ポケモンGOプラス)」の模倣品を販売したとして、19年3月に警察による家宅捜索を受け、同模倣品91個が押収されました。また、露天の記録では、周はそれまでに同模倣品を計337個販売していましたが、周はそのうち216個についてのみ販売を認めました。

 同案はその後、検察により起訴されました。裁判所は被告人に対し、任天堂と和解をすれば執行猶予付きの判決とすると和解を促しましたが、被告人は検察側の提示した和解額に応じず、無罪を主張しました。裁判所は19年10月、周を懲役4月または12万元の罰金に処すとし、ポケモンGOプラス模倣品216個の販売で主に得た犯罪所得11万9,488元を没収するとしました。

 被告はこの判決を不服として控訴し、任天堂は第二審で民事賠償請求を行いました。20年2月、知的財産裁判所は上告を退けると同時に、周に対して以下の計算方法で算出した合計33万元の損害賠償の支払いを命じました。

1.警察により押収されたポケモンGOプラス模倣品は販売こそされていないが、被告人は同模倣品を「散布することを意図し、所有および陳列」したのであるから、任天堂の商標権を侵害している。このため、損害賠償の対象となる数量に加算され、権利侵害台数は合計で216+91=307台となる。

2.本案の各種状況を斟酌した結果、被告人が支払うべき損害賠償額は、模倣品販売価格の600倍が妥当となる(上記の権利侵害台数の約2倍)。模倣品の販売価格は550元のため、損害賠償額の合計は550×600=33万元となる。

 知的財産裁判所は同刑事判決中で次のことを強調しています。

 「不法所得」の没収は、被害者に対する補償の意味合いがある。本案の告訴人は既に民事訴訟を提起し、損害賠償を求めているが、被告は本案判決の段階でも同損害賠償を支払っていない。このため、刑法の規定により、民事判決において判断された賠償額を「不法所得」から控除することはできない。

 確かに、これらの案件で判断された賠償額は、模倣品の販売をもくろむ他の販売者に対する抑止となるものですが、台湾の裁判所の「強制執行」の能力と効率は低く、また近年大量の執行官を雇用したため、その能力、経験共に今後の成長が待たれるのが現状です。ですから、勝訴判決を勝ち取ったとしても、その執行に対してさらなる注意と労力を向けなければ、判決に見合った成果を得ることは難しいでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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