ニュース 法律 作成日:2020年3月11日_記事番号:T00088758
産業時事の法律講座ディーラーやエージェントは並行輸入商品を心から憎んでいます。一生懸命努力してある商品の代理権を獲得し、プロモーションを行ってヒット商品になるまで育て上げたところで、同じ商品を海外から並行輸入した赤の他人が、おいしいところだけを国外に持っていってしまうのですから。
しかし、並行輸入は台湾の商標法で許容されている行為です。「登録商標が表記された商品を、商標権者またはその同意を得た者が国内外の市場で取引し流通させた場合、商標権者は同商品に対して商標権を主張することができない」と規定しています。このような考え方は、消尽(しょうじん)原則(the principle of exhaustion)、またはファースト・セール・ドクトリン(First Sales Doctrine)と呼ばれる商標法上の理論です。
ディーラーやエージェントはこのような理論があることに鑑み、海外の商品提供メーカーに対し、自社が同商標を登録することに同意してもらったり、メーカーの持つ商標について専属ライセンス契約をしてもらったりして、自らの権益を守っています。
こうすることで、同様の商標が原産地と台湾で異なる登録者によって商標登録されるため、二つの商標となり、国内業者は国内での商標権者として並行輸入商品を取り締まるのです。
台湾で1回目の流通
台湾の紅創意有限公司(以下、紅社)は、米国企業であるPhilip Scott, Inc. (California Corporation), DBA Philip B, Inc.(以下、フィ社)の同意を得て、台湾第1629381号「PHILIP B」商標を登録し、化粧品への使用を指定しました。
紅社は、2015年に哿鑫国際股份有限公司(以下、加社)が、「PHILIP B」の商標を使用した化粧品を市場で販売していることを発見したため、台北地方検察署に対して告訴しました。
告訴を受けた検察官はその後、被告の販売しているシャンプー、コンディショナーなどの商品は全て並行輸入した本物であることを確認したため、被告は故意に模倣したわけではないとして、被告を不起訴処分としました。
紅社はこれを不服として異議を申し立て、台北地方法院(地方裁判所)に対して「交付審判」を申請しました。台北地方裁判所は17年6月に訴えを退けました。
加社も負けてはいませんでした。同社は16年に知的財産法院(知的財産裁判所)に対して、「加社が16年1月7日にフィ社のオフィシャルサイトで購入した『PHILIP B』の並行輸入品に対して、紅社は商標権を主張できない」ことを確認する民事訴訟を提起したのです。
知的財産裁判所は16年8月12日、原告の訴えを退ける判決を下しましたが、原告はこれに対して控訴。同裁判所第二審は17年1月24日、次のような理由から訴えを退けました。
1.係争商品は控訴人がフィ社より購入したものであり、紅社より購入したものではない。商標法の消尽原則を根拠とすれば、フィ社は既に市場で係争商標が表記された商品の1回目の流通をさせているのであるから、同商標は既に消尽されており、フィ社は控訴人に対して商標権を主張することはできない。
2.しかし、係争商品は、台湾においては紅社がその商標権を持っていおり、紅社が市場で1回目の流通をさせたのではないのだから、紅社にとっては係争商品はまだ1回目の流通が行われたこととはならない。また同社は係争商品に関して何らの報酬も得ていないのであるから、「商標権の消尽」は存在しない。したがって紅社は加社に対して商標権を主張することができる。
加社はこの判断を不服として最高法院(最高裁判所)に上告しましたが、同裁判所は20年1月16日に原判決を破棄し、知的財産裁判所に案件を差し戻しました。同判決の中で最高裁は次のような意見を述べています。
1.台湾の商標法は商標権の国際消尽原則を採択しているため、商標権者はその同意を経て市場に流通した商品に対しては、その1回目の流通が国内であるか国外であるかを問わず、再度権利を主張することはできない。また、商標法は明文規定をもって正規品の並行輸入の正当性を認めている。
2.商標権者は同様の図案をもって、自らまたはライセンスを受けた他者に、異なる国での商標登録をする、またはさせることができる。同商標は、属地主義の概念からは元々登録されている商標とは異なる商標となるわけだが、しかしそれらの図案は同じものであり、本質的には「排他権の源」も同一の権利者である。したがって、異なる国の商標権者が、実はお互いにライセンスまたは法律上の関係などにある場合、たとえ国外における1回目の流通行為であっても、ライセンスを受けて商標登録した国内の商標権者に対して消尽原則の結果を生む。
この判決からは、台湾は現在「商標権の国際消尽原則」を採択しているため、同一の商標がライセンスを受けた台湾企業によって別途登録されているような場合でも、並行輸入された正規品に対して商標権を主張できないことが分かります。
しかし、この判決には、海外では登録されていない中国語に訳された商標を、台湾の業者が登録していた場合でも、同様の結果となるのかについては説明がなされていません。
徐宏昇弁護士
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