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第283回 室内設計も著作権法の保護対象


ニュース 法律 作成日:2020年1月8日_記事番号:T00087750

産業時事の法律講座

第283回 室内設計も著作権法の保護対象

 台湾では、何か大きな事件が発生するたびに、本来責任を取らなければならない政府機関は、まず口をそろえて「法律に明文規定がないため、政府としては有効な管理を行うことができない」と責任逃れの言い訳をし、そしてその後に立法を行い、彼らの言うところの「法律上の穴」をふさぐということが起こります。

 しかし、法律解釈の際には、これと異なることが見られます。少なくともいくつかの案件では、裁判所による法律解釈の結果は、立法の目的および社会一般大衆の期待に、より沿ったものとなっています。

参観してホテル客室を模倣

 雲朗観光股份有限公司(以下「雲朗」)は、2015年6月に次のような主張により、智慧財産法院(知的財産裁判所)に対して訴訟を提起しました。

・被告である桂田璽悦酒店股份有限公司(以下「桂田」)とその責任者の朱仁宗氏は、台東桂田酒店を経営していたが、被告らは、雲朗の経営する君品酒店(パレ・デ・シン)の客室設計を模倣することを目的として、14年5月2日に君品酒店の「豪華客房(デラックスルーム)」へ宿泊後、同年5月5日午後に、再度宿泊登記し、君品酒店のサービスマネージャーに対して「雅緻客房(スーペリアルーム)」の参観を申し込み、君品酒店の同意を得た。

・被告らは6~7人以上で、同客室の室内設計、家具、装飾品などの設計・配置を写真に撮り、また測量を行った。

・雲朗側のその後の調査により、桂田側は同社が経営する台東桂田酒店において君品酒店の客室設計を模倣していることが分かった。模倣の対象には、壁紙の素材、設計・配置、家具の配置などが含まれ、これらは君品酒店の雅緻客房や豪華客房と同じものであった。

 このため、原告は著作権法に基づいて、模倣がなされた客室の設計の除去・廃棄、今後二度と同模倣設計を使用しないこと、ならびに損害賠償を求めました。

 知的財産裁判所は数年にわたる審理を経て、18年9月に次のような概要の判決を下しました。

1.被告は、原告に対して500万台湾元(約1,800万円)および利子を支払わなければならない。

2.被告は、台東桂田酒店における特定の客室設計のうち、原告の客室設計と構成が近似するものを除去・破棄しなければならない。除去・破棄が終了するまでは、消費者に同客室を使用させてはならない。

3.被告は、自らのホームページと、その他ホテル予約サイトに掲載している原告の客室設計を侵害している写真を削除しなければならない。

4.被告は、本判決の主文を蘋果日報の全国版1面の下半面に、1日だけ掲載しなければならない。

建築著作と同等の保護

 この判決に対して、原告、被告双方が控訴した後、知的財産裁判所第二審は、19年9月に原判決を維持する判断を下しました。裁判所は判決の中で、「客室設計」が著作権法の保護を受けるものであるかどうかについて、次のような深い討論を行っています。

1.建築物そのものは一種の著作である。このため、他者の建築物を模して行う建造、または他者の建築設計図を模して建築設計図を作成することは複製行為に当たる。建築設計図と建築物は共に建築著作であるが、このうち建築については芸術領域における核心部分であり、科学技術分野の工程設計図が応用領域に属するのとは異なるものである。

 建築著作には、思想や感情表現が伴っていなければならないため、一般の住宅や工場などのような、実用目的の建築物は建築著作ではない。また、建築設計図の完成後に続けて作成される構造図、水道電気配線図、施工図および室内設計図などの詳細図面は図形著作に属するものであり、建築著作ではない。

2.著作権法が保護する「その他建築著作」とは、建築物以外の建築物と関係する著作を指している。例えば、オリジナル性のある景観、庭園造園などで、橋、塔、庭園、墓碑、噴水などの芸樹的価値を備えた創作が含まれる。

 庭園設計や室内設計の設計図は、建築著作の建築設計図に属する。塔、あずまや、アーチ橋、垣根、造形としての小山、林・木・花・草、魚の池、小路などの項目の配置・設計を含んだ庭園設計そのもの、または建築物は、その他建築著作に属する。

3.室内設計とは、建築物の設計後、建築物の室内に関して別途設計がなされるものを指す。オリジナル性のある室内設計で、芸術性と財産上の価値があるものは、建築著作と同等の保護を与えるべきである。このため、室内設計図は建築設計図の一種である。

 建築設計は、建築物の外観によって思想、感情を表現する創作であるが、この保護対象には建築物の内部および外観が含まれる。

条文に具体的定義なし

 著作権法は「その他の建築著作」について具体的な定義を設けていません。ですから、「室内設計」が「その他の建築著作」であるかどうかについては、裁判所が著作権法の保護目的に基づいて行う判断を待たなければならないわけです。

 これについて第一審の裁判官は、法律の保護の目的から、次のように保護の必要性を説明しており、本案についての参考性の高い注釈となっています。「近年、台湾内外を問わず、定期的に室内設計のコンテストが催されている。賞を勝ち取った室内設計者は、その受賞経歴をもって、創作能力が肯定されたことの証明としている。このことから、優秀な室内設計作品には、高度な芸術性と財産的価値があることは明らかである。このため、オリジナル性を有している室内設計創作に対しては、建築著作と同等の保護を与える必要がある」。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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