ニュース 法律 作成日:2020年6月10日_記事番号:T00090454
産業時事の法律講座台湾では会社設立の際、会社登記ではなく「商店」登記や「商業」登記を行うことが一般的に見られ、「商店」や「商業」の組織形態は単独資本も組合もあります。▽会社▽商店▽商業▽工場──のどの形態を採るにせよ、さまざまな事情で他人名義での登記が行われることがありますが、帰属権に係る紛争が発生した場合、本当の権利者には非常に大きなリスクとなります。こうした場合でも、商標権を掌握しておくことが、最も有用な対策となるでしょう。
兄弟である陳志偉氏と陳志堅氏は、共に「広名企業社」で働いていました。登記上、広名企業社は陳志堅氏が単独で出資する組織でした。後に2人の間に意見の相違が生じたことで、陳志堅氏は2013年7月1日、台中市政府に対して広名企業社の登記抹消手続きを行いました。陳志堅氏は同社を去り、「志綸科技有限公司」を設立しました。
一方、陳志堅氏は08年の段階で、配偶者の蔡綉華氏の名義で、広名企業社がウェイストゲートバルブ(以下、バルブ)製品に使用していた商標「WE STYLE」を商標登録していました。この商標の使用は、後に志綸科技に対しライセンス供与されました。
登記抹消後の登録商標の使用
ただ、陳志堅氏は、自らが広名企業社を離れた後は、陳志偉氏が「WE STYLE」の商標を使用することはできないと考えていました。そこで、陳志堅氏は15年6月、友人に依頼し、陳志偉氏が経営する「広名工業/広名渦輪門市」でバルブ1個を購入したところ、「WE STYLE」の商標の使用を確認したため、保護智慧財産警察(知的財産保護警察)に通報した上で、商標法違反で告訴、陳志偉氏による広名企業社の印章の使用は文書偽造であると主張しました。
一審は抹消前の製造とし無罪
検察は本案を起訴しましたが、台中地方法院(地方裁判所)は18年12月に次のような理由から陳志偉氏を無罪としました。
・広名企業社の登記が抹消される以前に生産されたバルブの素材と、陳志偉氏が15年に販売したバルブの素材が相同なこと、登記抹消以前にサプライヤーから大量購入していたことから、陳志偉氏が15年に販売したバルブは、広名企業社の登記が抹消される以前から存在した可能性がある。
二審は抹消後の製造で有罪
陳志堅氏はこれを不服として控訴しました。智慧財産法院(知的財産裁判所)は19年4月に原判決を破棄し、次のような理由から陳志偉氏を商標権侵害で有罪としました。
1.広名企業社が販売していたバルブは、コンピューター数値制御(CNC)フライス盤で「WE STYLE」の商標を刻印していたが、陳志堅氏が12年にフライス盤を持ち帰って以降は、外部業者に委託してレーザー刻印を行っていた。陳志偉氏が15年に販売したバルブはレーザー刻印されたもので、サプライヤーも陳志偉氏が13年以降にも大量のバルブを購入していたと証明していることから、陳志堅氏が購入したバルブは、同氏がまだ広名企業社にいた際に製造されたものではない。
2.陳志偉氏と陳志堅氏は共にバルブを販売しているが、陳志偉氏は陳志堅氏の同意やライセンスを受けずに、バルブ上に「WE STYLE」の商標と相同な表示をしたため、「同一の商品に対して、登録商標の図案と相同の図案を使用した」行為を構成している。同商標は創造商標で、高度の識別性を有すること、陳志偉氏と陳志堅氏の商品の販売方式と販売場所に高度の重複性があることから、陳志偉氏が販売したバルブは関連消費者を混交誤認させるもので、刑事処罰をしなければならない。
文書偽造は認定せず
3.広名企業社は、登記上は陳志堅氏の単独資本となっていたが、双方当事者の父親、兄弟が証明している通り、実際は3兄弟の組合だった。陳志堅氏が登記を抹消した後、メーカーの未払い金は3兄弟に3等分して振り込まれていた。また、陳志堅氏が登記を抹消した後であれば、陳志偉氏にも別途「広名企業社」を登記する権利は存在し、組合関係にあったからには、陳志偉氏が経営者の一人として広名企業社の印章を領収書に押印したとしても、偽造私文書行使の故意は存在しない。
最高裁「登録者が権利者」
陳志偉氏はこれを不服として上告し、「WE STYLE」の商標は、その設計から商標登録に至るまで、全ての費用を広名企業社が負担したこと、広名企業社こそが同商標の実質上の権利者であること、蔡綉華氏は名前を貸した名義上の登記者にすぎないことを主張しました。
しかし、最高法院(最高裁判所)は20年4月、次のような理由から、この訴えを退けました。
・商標法は登録主義を採択しているため、登録がいったん行われれば商標権を取得したこととなる。商標法第54条、第60条の異議や無効審判による登録取り消し、または第63条による登録廃止によるほかは、商標登記者が合法で有効な商標権者となる。
本案からも分かる通り、他人名義での登記や登録は非常にリスクが高い行為です。実際に紛争が発生した場合、裁判所は「商業」登記者を権利人と判断しない可能性がある一方、商標登録者こそが権利者と認定する可能性も高いのです。
徐宏昇弁護士
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