ニュース 法律 作成日:2020年7月8日_記事番号:T00090919
産業時事の法律講座世の中では毎日多くの人が騙(だま)されています。その主な原因は騙される側の「貪欲な心」です。明らかに不可能な計画を信じて投資をし、ハイリスクの計画の中から利益を得ようとしています。通常、そのような投資は、騙されたことが分かったときには時すでに遅しです。それでも裁判所は法律に基づいて賠償請求案を処理しなければなりません。
マルチ商法に引っかかる
陳金龍は、その旗下に「中華聯合電信股份有限公司」「中華聯合股份有限公司」「中華聯網寛頻股份有限公司」の三つの企業を持つ「中華聯合グループ」の責任者でした。同グループは「Yes 5TV」というインターネットTVプラットフォーム業務を行っていました。その業務方法は、各加盟店が募集した視聴者が視聴費を支払えば加盟店に「新規開発ボーナス」が支払われ、また、視聴者がテレビショッピングで買い物をした場合、別途「メディア購入ボーナス」「チャネルボーナス」が支払われるというものでした。
同グループのネットTVには人気のあるチャンネルがなかったため、各加盟店は視聴者の獲得に苦戦し、前述の3種のボーナスが支払われることはありませんでした。そこで、加盟店は下請けの加盟店を獲得し、収入を得ていました。
公平交易委員会(公平会、公正取引委員会に相当)は、同グループのこのような加盟制度を連鎖販売取引、いわゆるマルチ商法と認定、公平取引法の規定により過料を科しました。
重要情報の非公開を主張
同グループの加盟店であった陳欣妤は、同グループが加盟店を募集する際に「重要な情報を公開しなかった」ため、誤解を与えられ、陳欣妤らは誤って加盟を決定してしまったと主張し、裁判所に対して同グループに支払った加盟権利金の返金命令を求めました。
また、同グループは外部に対して、▽同グループが加入する米企業「美商中華聯網公司」はラオスにおいて四つの特許事業を展開しているため、同社の株式を購入することは、ラオスの4社の株式を購入することと同じである▽董事長である陳金龍と、ラオスの「東盟経貿中心」主席である「愛新覚羅・毓昊(中国清王朝の満州人皇帝と同姓)」とは特別な関係があるため、将来驚くような利益が上がる──などとし、陳欣妤と汪樹博に対して、中華聯網公司の株式を購入することを勧めました。
調査の結果、▽陳欣妤らが手に入れた株式は2008年6月3日に英領バージン諸島に設立されたChunghwa Network Co., Ltd.(中国語名:中華聯網公司)のもので、07年8月13日に米デラウェア州に設立され、ラオスに投資を行っていた「美商中華聯網公司」のものではない▽「愛新覚羅・毓昊」も満州人などではなく、台湾の指名手配犯で、陳金龍は過去に彼の刑事保証金を支払ったことがあった▽ラオスには「東盟経貿中心」という機関など存在しない──ことが明らかになりました。
陳欣妤らは陳金龍らが起訴された後に、第二審で「刑事附帯民事訴訟」を提起し、持ち株分の返金を求めました。
時効の2年以内
台湾高等法院(高等裁判所)台中分院は、18年6月に陳欣妤らに対する80万台湾元(約290万円)の返金を命じる判決を下しましたが、陳欣妤らが取得した設備の価格6万元分については控除されました。また、持ち株分の返金については、陳欣妤に59万元を、汪樹博に118万元を返金するよう命じました。
被告はこれを上告しましたが、最高法院(最高裁判所)は20年6月の判決で次のような判断を示しました。
1.加盟金部分については棄却する。被告は、陳欣妤が16年11月の第二審の際に起訴したことから、2年の時効は過ぎているなどと主張しているが、「陳欣妤は、陳金龍らの刑事第一審が15年1月28日に宣告された時点で初めてその損害と賠償義務者を知ったのであり、また被告らもそれがもっと早い時点で知られていたことを証明できなかった」ことから、陳欣妤が起訴をした時点では、「損害と賠償義務者を知って」から、時効である2年は過ぎていなかった。
2.持ち株分の返金については原判決を破棄し、差し戻す。有価証券募集人の虚偽不実の行為により被った損害の金額は、「請求権者の買い入れ価格または売り渡し価格」と、「有価証券の現在の価格」の差額でなければならず、持ち株分全額ではない。原判決は持ち株分全額を返金するよう命じていることから、間違いがある。
3.計算方式については、行為者は有価証券の価格が下がった部分についての差額を賠償しなければならないという「粗利損益法」と、行為者は「その虚偽不実により発生した有価証券価格の損失」を賠償しなければならないという「純損失差額法」の2種類がある。もし「純損失差額法」によれば、市場的要素により発生した有価証券価格の損失については、賠償の範囲には含まれない。
よくある詐欺の手段でも
本案の詐欺手法は悪質なもので、合理的な人が、それを信じて投資をすることはないでしょう。例えば、中華電信とほぼ同じ会社名で、「愛新覚羅」の名を持つ有力者が、ラオスにおいて特許事業を行っているなどは、全て詐欺案件でよく見掛ける手段です。しかし貪欲な人は、気付きません。
今回の判決は、法律理論上の検討のほかは、何の実質上の効果もないものでしょう。なぜならば、原告は何の賠償も受けることはできないはずですし、また最高裁が認定した「知った」時というのは全ての案件に適用できるものでもありません。本案は、被告の「十分かつ完全に情報を公開しなかった」行為のために、裁判所は、原告はその時点まで、被告の行為が違法であることを確定できなかったと判断したのです。
徐宏昇弁護士
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