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第296回 投資案のマルチ商法


ニュース 法律 作成日:2020年7月22日_記事番号:T00091160

産業時事の法律講座

第296回 投資案のマルチ商法

 違法な連鎖販売取引(マルチ商法)は、商品販売の名目の下、下位の会員が支払う入会費でもうけるというものです。では、商品を販売しない場合、法で禁止されるマルチ商法に当たるのでしょうか?

入会させれば賞金

 陳麗雯ら3人は、2014年10月に中国広西省南寧市の「純資本運営投資案」に参加しました。これは、▽投資者は入会費として6万9,800人民元(約107万円)を支払った後、他者をその下位の会員とする資格を得る▽会員は「業務員」として一定数の入会者を集めた後、「老総」にランクアップする。老総にもランクがある▽新しい下位の会員が入会する度に、ランクに応じて賞金を得る(上位のランクほど賞金は多い)──というマルチ商法の形態を採っていました。

 陳らは入会後、台中市で投資案の説明会を開催。黄蓓雯と葉倩雯の2人を南寧市に招待し、投資案に関する数日間の視察に参加させ、入会を後押ししました。入会費を支払った後にだまされたことに気付いた2人は、台中地方検察署に告訴しました。

拡大解釈は不可

 検察の起訴を受けた台中地方法院(地方裁判所)は18年5月、次のような理由により、陳らを無罪とする判決を下しました。

1.多層次伝銷管理法(マルチ商法管理法)が禁止しているマルチ商法とは、「商品またはサービスの宣伝、販売を行う際に、他者の参加を勧誘することを主要な収入源とする」行為を指すのであるから、「他者の参加を勧誘する」以外にも「商品またはサービスの宣伝、販売」を行わなければ成立しない。

2.何の商品またはサービスの宣伝、販売を行わず、単に投資資金を集め、収入源とするのであれば、それは銀行法における「吸金(違法集金)」に当たり、処罰はより重いものとなる。

3.銀行法が違法集金を犯罪として定めているのであれば、マルチ商法管理法における「商品」の範囲を「権利または資格」にまで広げ、他者の参加を勧誘する権利を「商品またはサービスの宣伝、販売」と解釈する必要はない。

4.被告人の行為は下位の会員を破綻させるものであり、社会経済の秩序を乱し、違法な投機を促すものであるが、法治国家は「罪刑法定原則」および「刑法の謙抑性の原則」を守らなければならない。前述のような行為の防止や抑制を目的として法律を拡大解釈した結果、市民が予期できない刑事制裁を受けるといったことは、あってはならない。

5.検察は被告人らを銀行法で起訴してはいないため、本院は銀行法により被告人らを裁くことはできない。

会員資格は商品

 検察の控訴を受けた台湾高等法院(高等裁判所)台中分院は19年7月、次のような理由から被告人らを逆転有罪とする判決を下しました。

1.一般商業上の商品分類とその管理からいえば、商品は「有形商材」と「無形商材」に分類される。そのうち無形商材は、法律商品(ライセンス、特許権、商標権など)と習慣商品(のれん、秘伝など)に分類される。

2.純資本運営投資案が宣伝・販売している商品とは、6万9,800人民元で購入する会員資格そのものである。会員はこの経済価値のある商品の資格を取得することで、より多くの賞金やコミッションを得る機会が与えられる。したがって、この会員資格はマルチ商法管理法における「商品」の定義に符合する。

最高裁も支持

 被告人らはこの判決を不服として最高裁判所に上告しましたが、最高法院(最高裁判所)は20年6月に、次のような理由から、高等法院の判断を支持し、上告を棄却する判決を下しました。

1.マルチ商法における「商品またはサービスの宣伝、販売」がない、または形式的で、他者が支払う参加のための対価が主な収入源となる場合、商品またはサービスの宣伝、販売を実質的には行ってはいないが、マルチ商法の核心を変質させたものにほかならず、それは法が禁止しているものである。

2.違法なマルチ商法の各階層の参加者は、この開設者や上位の管理者との間に直接の意思疎通を必要としない。間接的な意思疎通と共同で犯罪を行う意思があり、相互の行為を利用して分業によって違法な販売行為を完遂しており、共犯に問える。

 この最高法院の判旨を見る限り、マルチ商法管理法で商品の存在しないマルチ商法を罰することは正確な法解釈ではないでしょう。また、今後類似する犯罪行為を重罪として裁くことができない可能性もあります。どちらにせよ、本案は最高法院の支持を受けた既定の法律理論となりました。注目に値する判決です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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