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第301回 登記上の誤りは権利の効力に影響しない/台湾


ニュース 法律 作成日:2020年10月14日_記事番号:T00092600

産業時事の法律講座

第301回 登記上の誤りは権利の効力に影響しない/台湾

 各法律上の権利には、全て登記制度が設けられており、登記によって絶対的効果や「第三者対抗」効果が付与されます。前者は、その法律上の権利は登記によって発生しますが、後者については、法律上の権利は既に存在するので、登記はあくまで証明の便利性を高めるだけのものです。

権利者の登記誤り

 原告である輝瑞大薬廠股份有限公司(以下「輝瑞」)は、南光化学製薬股份有限公司(以下「南光」)に対して訴訟を提起し、次のように主張しました。

 ▽輝瑞愛爾蘭薬廠私人無限責任公司(ファイザー・アイルランド・ファーマシューティカルズ)は、発明特許第083372号「男性の勃起不能または女性の性欲官能の治療または予防に用いる薬学組成物」の特許権者である▽同特許の有効期限は2年の延長を認められ、2016年7月までとなった▽原告は同特許の専用実施権の被許諾者である▽被告である南光は同特許技術を利用し、薬品を製造販売した▽被告に対して12年から15年の利益4,500万台湾元(約1億6,600万円)の損害賠償を求める。

 これに対する被告側の主張は次のようなものでした。

 ▽同特許の本当の権利者は、登記上の権利者であるファイザー・アイルランドではない▽原告は同社から同特許の専用実施権を得ることは不可能である▽本当の権利者が登記を行っていないのだから、それらの特許権は「被告に対抗することはできない」▽同特許が「許可証を取得するために実際に実施が不可能だった期間」は2年に満たないのであるから、知的財産局による特許期間の延期は無効である。

 このような訴えに対して、智慧財産法院(知的財産裁判所)第一審は、16年1月に次のような理由から判決で原告の訴えを退けました。

1.特許期間の延長について

 原告は同特許は生産国であるオーストラリアにおいて臨床試験を受けており、同期間および同国の検査登記期間(1995年9月28日~98年9月4日)は「許可証を取得するために必要な期間」の一部であると主張する。

 しかし、同特許薬品は96年11月15日の段階で同国において販売許可を得ており、また第二次臨床試験の報告書に記載されている試験期間は96年1月9日からとなっていることから、「許可証を取得するために必要な期間」は96年1月9日から96年11月15日までであり、2年に満たない。よって、知的財産局による期間の延長は不適法であり、特許期間は14年5月13日までとなる。

2.特許権者の認定について

 登記上の特許権者による合法な権利授与が行われていないのであるから、原告が同特許の専用実施権を得ることは不可能である。

 この判断を不服とした原告は控訴しましたが、同裁判所第二審は、一審とほぼ同様の理由で、18年4月に訴えを退けました。

対抗主義は保護のため

 しかし20年2月、最高裁判所は次のような理由から原判決を破棄する判断を下し、判決を知的財産裁判所に差し戻しました。

1.特許期間の延長について

 同規定の目的は、医薬品や農薬の製造方法の発明特許方法に規定される審査を経なければ販売許可を得られないため、特許を実施できない期間を補填することにある。

 本件における同国内での臨床試験は、台湾での販売を目的としたものであり、同国内におけるそれではない。そこで、記載されている試験期間の終了日が、最終投薬日となるが、当日はまだ薬効は現れていなかったのであるから、「試験結果が現れた日」を試験期間の終了日とすべきである。

2.特許権者の認定について

 本件特許の本当の特許権者は輝瑞愛爾蘭薬廠合夥事業ファイザー・アイルランド・ファーマシューティカルズであり、原告は同社から専用実施権を受けたものである。

 知的財産局に登記されている名称には確かに誤りがあるが、本当の特許権者の権利にも、専用実施権の被許諾者の地位にも影響は及ぼさない。

 法律には「登記を経なければ第三者に対抗することはできない」とあるが、「特許権の登記対抗主義は、取引の相手方を保護するためのものであり、権利侵害を行う者のためではない」。

 本案特許は世界中で注目されている薬品ですが、各種登記の過程において多くの誤りがあり、特許権を延期したにも関わらず、その期間が終了して久しく、権利侵害訴訟が進まないという結果をもたらしてしまっています。まさに「使えない」特許です。注意が必要な点です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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