ニュース 法律 作成日:2020年11月25日_記事番号:T00093353
産業時事の法律講座商標の「善意の先使用」とは、商標登録される前に、事情を知らない者が同一の商標を使用することを指します。先に使用していた場合、同商標がたとえ登録されても、引き続き使用することができます。この種の規定はよく模倣業者の言い訳にされます。
今回は、2017年11月22日付の本欄でご紹介した、模倣業者が商標の「善意の先使用」を言い訳とした判例(https://www.ys-consulting.com.tw/news/74078.html)と、その後の決着についてまとめてご紹介します。
原告のシンガポール企業「首諾新加坡私人有限公司(ソルチカ・シンガポール)」は、1999年に台湾で商標「V-KOOL」を、自動車と建築用の遮熱フィルムなどの商品を指定し登録しました。
被告の「全統隔熱紙有限公司」はよく似た商標を使用し、隔熱紙などの商品を取り扱っていました。2011年設立の「全統国際有限公司」は、英語の社名を「V-Kool International Co., Ltd.」、ドメインネームを「www.usv-kool.com.tw」としていました。広告の中では、「米国V-KOOL」「米国直輸入」「米国メーカー5年保証」などの言葉を使用し、消費者に誤解を与えていました。
過去の見積書で権利主張
原告は智慧財産法院(知的財産裁判所)に対して訴訟を提起し、全統隔熱紙有限公司と全統国際有限公司(以下「被告ら」)による商標「V-KOOL」の使用禁止と、525万台湾元(約1,900万円)の損害賠償を請求しました。
これに対して被告は次のような抗弁を行いました。▽原告の商標は96年に申請されてはいるが、99年になってから許可公告された▽被告は99年に警察の家宅捜索を受け、刑事告訴されたが、台湾高等法院(高等裁判所)高雄分院は02年10月の判決で、被告は商標登録される前に同商標を使用していた事実を認定し、無罪判決を下した▽95年10月10日の見積書で、同商標を使用している──。
その上で被告は、「善意の先使用」の規定により、同商標を引き続き使用する権利があると主張しました。
智慧財産法院第一審は14年1月の判決で、被告らによる係争商標の使用、企業名とドメインネームでの使用を禁じ、被告らに連帯で損害賠償216万元の支払いを命じました。判決を不服とした被告は控訴しました。
一方、第二審は15年4月に原告の主張を退ける判決を下しました。被告が係争商標に関して「善意の先使用」をしていたことは、99年の刑事案件中に示された見積書から証明され、被告は同商標を続けて使用することができるとしました。
原告は判決を不服として上告し、最高法院(最高裁判所)は17年7月に原判決を破棄しました。理由は以下の通りです。
1.被告が本当に、係争商標が登録される前から長期にわたって同商標を使用していたのなら、なぜたった1枚の見積書しか証拠がないのか。
2.全統国際公司は11年設立で、係争商標が登録される前に同商標を使用することは不可能である。なぜ続けて使用する権利があるのか。
デザイン変更に追随
智慧財産法院は18年12月にようやく原告勝訴の判決を下し、被告による係争商標の使用を禁止し、追加で309万元の賠償を命じました。賠償額は第一審との合計で525万元になりました。
被告は再度上告しましたが、最高法院は19年7月、次の理由から訴えを退けました。▽原告は当初、商標の文字を太字にしており、被告も右斜めに傾いた太字を使用していた▽原告は02年より字体を草書体に変更したが、被告も草書体を使用し始めた▽商標権者が13年よりメタル感のある商標にデザイン変更したところ、被告も同様にメタル感のあるデザインに変更した▽これらのことから、被告は故意に混交し、消費者に誤認させている。つまり善意ではなく、善意の先使用ではない──。
本案は確定後の20年に被告による再審申請が行われましたが、最高法院は10月の判決で、被告による使用は悪意のある模倣であり、善意の先使用ではないことを再認定し、その訴えを退けました。
それにしても、被告による「善意の先使用」というこの主張は、実に二つの第二審裁判所に受け入れられたことになります。これまでにどれだけの業者が被害を受けたのでしょうか。
徐宏昇弁護士
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