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第308回 他者の登録商標の引用/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年1月27日_記事番号:T00094435

産業時事の法律講座

第308回 他者の登録商標の引用/台湾

 出版物や広告で、他者の登録商標を引用するのはよくあることで、商標権者も通常は異存はありません。しかし自らの価値を高めるために大量に使用した場合、権利者の不満を招き、争いとなることがあります。

ルイ・ヴィトン商標を使用

 「大鑑定師」を自認し、自らを「正邦師」と称する李正邦は、中古ブランド品を取り扱う会社「阿邦師精品鑑定」を設立、中古ブランド品の販売、鑑定と研修サービスを提供。事業展開のために『LV防偽鑑定書(ルイ・ヴィトンの偽物防止鑑定書)』(繁体字版)、『求真与防偽(本物を求め・偽物を防ぐ)─国際ブランドシリーズ鑑定─ルイ・ヴィトンシリーズ鑑定』(簡体字版)という2冊の本を出版しました。

 李氏は、書籍内やフェイスブック(FB)の「阿邦師ファンページ」に掲載したブランドオークションのポスター、『国際奢侈品鑑定師レベル1』の教材、店舗のシャッターなどに、フランスの高級ブランド、ルイ・ヴィトンが著作権を持つ商品や店舗の写真を掲載。同書の各ページ隅にルイ・ヴィトン社の商標を印刷、「LV防偽十大秘訣」広告カードにもルイ・ヴィトン社の商標を掲載していました。

賠償金906万元

 ルイ・ヴィトン社は2016年12月、智慧財産法院(知的財産裁判所)に訴訟を提起、▽李氏▽李氏の会社、阿邦師精品鑑定▽中華民国名牌精品鑑価協会──らが同社の著作権、商標権を侵害したと主張し、3,450万台湾元(約1億3,000万円)の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めました。

 知的財産裁判所第一審は18年8月、次のような理由から、被告の著作権、商標権侵害を認め、906万元の賠償を命じました。

1.ルイ・ヴィトン社が著作権を有する写真を被告が無断で使用したことによる賠償額は、▽書籍、452万元(1冊当たり33枚使用。226万元/冊✕2冊)▽ポスター、18万元(9枚使用)▽教材、34万元(17枚使用)▽店舗ドア、2万元(1枚使用)──。

2.被告が書籍の各ページ隅にルイ・ヴィトン社の登録商標を印刷したことは「商品への商標の使用」となり商標権を侵害している。被告がその他書籍にルイ・ヴィトン社の商標を使用したことについては、それら商標は「書籍」への使用を登録していないにもかかわらず、被告の行為は「消費者に容易に、同書が原告の許諾を経て印刷、出版されたとの誤認をさせ、同商標の識別性を損なう恐れがある」ことから、商標権の侵害と見なし、賠償金額は2冊の販売価格(1,000元✕2冊)、商標4種類の500倍、400万元とする。

3.謝罪広告の掲載は「名誉回復」の方法であるが、本件についてルイ・ヴィトン社は名誉の損害を証明できていないため、同要求は棄却する。ただし、被告には判決主文の新聞掲載を命じる。

ルイ・ヴィトンは控訴

 ルイ・ヴィトン社は判決を不服とし、908万元を上乗せした賠償を要求し控訴しましたが、被告は控訴せず、答弁も行いませんでした。知的財産裁判所は19年7月、次のような理由から訴えを棄却しました。

1.被告が写真を使用した行為は、ルイ・ヴィトン社の著作権を侵害しているため、原判決と同様の理由から、506万元を賠償すべきと判断する。

2.被告が書籍の各ページ隅にルイ・ヴィトン社の商標を使用したことは「単に一般の装飾図案としての使用であり、書籍図案の豊富性を高めるためのもので、係争書籍の出所を表したものではなく」、消費者に同書がルイ・ヴィトン社の出版であると誤認させることもない。

書籍の商標侵害はない

 ルイ・ヴィトン社は上告しましたが、21年1月6日、最高裁は次のような理由から、訴えを棄却しました。

1.第二審が「前述の書籍と広告カードの名称、内容および前後配置、編集方式などは、係争商標によって自らの商品または役務の名称、性質、特性を表しているのであり、商標として使用しているわけではない」とし、商標侵害が無いとしたことには違法は無い。

2.第一審判決は、前述の使用方法が商標権を侵害しているとして400万元について賠償を認めた。一方、第二審判決は、上記の使用方式は商標権を侵害しないとし、ルイ・ヴィトン社が別途主張した400万元について認定しているのであるから、両者は矛盾していない。

3.ルイ・ヴィトン社は、第一審における商標権侵害部分の判決は、被告が控訴していないことにより確定しているため、第二審は第一審と異なる認定はできないと主張しているが、第二審は第一審において確定した部分について判決したわけではないため、異なる認定は可能である。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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