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第312回 ソフトウエアの特許侵害(後半)/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年4月14日_記事番号:T00095569

産業時事の法律講座

第312回 ソフトウエアの特許侵害(後半)/台湾

 前回(https://www.ys-consulting.com.tw/news/95243.html)に続き、実際にあった事案で、特許の発明者は台湾大学新聞研究所の彭教授です。ソフトウエア開発は彭教授の研究分野や業務範囲ではありませんが、2000年初め、彭教授は筆者に「自動化アンケートソフトウエア」の特許出願を依頼しました。特許は02年に認められ、ある業者が同特許を侵害していたため、訴訟を起こし、全面勝訴を勝ち取りました。

被告が控訴

 被告企業は判決を不服として控訴し、次の2点の抗弁を行いました。

1.本件特許はアンケートを自動的に作成、回収、分析を行うものであるが、原告が証拠収集した際に使用したサービスは全て無料の「オンラインアンケートサービス」である。有料サービスの名称は「企業カスタマイズアンケートサービス」といい、顧客に書面のアンケートを提出してもらった上で、被告企業のエンジニアがプログラムを1行1行組んで電子アンケートを作成した後、システムを通じてアンケートを会員に送るものである。そのため、被告のシステムにはアンケート自動作成装置は含まれておらず、よって特許の侵害を構成しない。

2.被告が顧客から受け取っている料金は第一審判決が認定したものと異なる。

 筆者は第二審の受命裁判官の指示の下、被告企業に出向き、帳簿の確認を行いました。企業弁護士は筆者らを発票(領収書)24万枚が保管されている部屋に招き入れ、「どうぞ何時間でも好きなだけ調べてください」と言いました。

 筆者が同企業に到着したのはお昼近い時間だったため、1,000枚ほどの発票を確認したときには既にお昼を過ぎていました。筆者は助手と一緒に近くでお昼を取り、同企業には午後3時過ぎに戻りました。同企業の弁護士が一体いつまでかかるのか心配しましたが、筆者は「07年以降の科目番号XXXXXXの収入リストを提供していただければ結構です」と伝えました。

 同資料は12年の春節(旧正月)後に、やっと筆者の元に届いたため、筆者は再度帳簿確認に出向き、半日かけて07年度から09年度の販売商品名「市場調査」の発票(レシート)計134枚を確認しました。筆者はこれら発票に記された収入こそが被告が権利侵害によって得た収入だと主張しました。

被告は手入力を主張

 それに対する被告の抗弁は次のようなものでした。

 全ての「企業カスタマイズアンケートサービス」は、手入力でプログラムを組んでおり、システムが自動でアンケートを作成するものではない。

 また、裁判官が被告企業で現場検証を行った際、筆者は簡単なアンケートを設計し、被告企業に現場でそれを組ませましたが、もちろん当日には完成はしませんでした。

 結局、被告企業は2週間後に電子アンケートを提出してきたため、筆者は次のように主張しました。

 長年にわたる経験を持つプログラマーがこれだけの時間をかけなければ電子アンケートを完成できないのですから、被告のコストは明らかに料金よりも高額です。被告は既にアンケートを自動で作成するシステムを持っており、手動入力でプログラムをするはずはありません。

 しかし裁判所は判決で、「企業カスタマイズアンケートサービス」のアンケートは、「控訴人(企業)のプログラマーがEclipse(イクリプス)のJava開発キットを使用してコーディングして作成したものである」とし、特許を侵害していないとしました。

 裁判官は被告の証明したものは「企業カスタマイズアンケートサービス」の収入を除いたものとし、被告企業の営業利益率から算出した07~09年の特許侵害獲得利益は177万台湾元(約680万円)になると判断、12年8月に被告に同額の賠償を命じました。

専門家による侵害証明を

 しかしこの判決では、「懲罰性賠償金」が見落とされていたため、筆者は最高裁に上告。同裁判所は14年3月に案件を差し戻すとともに、被告の上告を退けました。

 14年10月、知的財産裁判所は判決で、被告は故意に特許侵害をしたことを認定し、追加で141万元の賠償を認めました。金額が150万元に満たないため、再度の上告はできず全案確定しました。

 また、被告企業は株式上場企業だったため、賠償金は速やかに支払われ、全案終結となりました。

 本案は特許に関わるどのような者にとっても得難い経験でした。特許説明書の企画、作成、申請、異議/無効審判の答弁から、特許侵害の証拠収集、証拠準備、起訴、帳簿確認、現場検証、控訴/上告まで、全て筆者が処理しました。

 本件からは次のことが分かります。

1.特許説明書、特に請求項の設計は、将来、特許侵害の証明の難易度に関わってくるため、訴訟経験の豊富な専門家に証拠収集および訴訟の角度から意見を提供してもらうべきである。

2.ソフトウエア特許の特許侵害の証明は、各種システム、ソフトウエア、通信技術などの知識、および各種業種の領域における知識にまで関わってくる。そのため、訴訟の準備段階においては、それらをよく理解している弁護士に十分理解してもらった上で、有益な証拠を収集し、裁判官が必要とする形にまとめなければならない。

3.ソフトウエア特許は「方法」による形式で請求できるが、「方法」に含まれるプロセスは全て機器内で進行するため、証明が困難となる。ソフトウエアで定義した装置によって請求すれば、訴訟時の特許侵害の証明は容易である。

4.損害金額の証明は訴訟の成敗に影響する。訴訟前訴訟期間中は、被告企業の各種データをできる限り収集しなければ、有効な証明方法は考えつかない。的確な処理をしなければ、勝訴判決はただの賞状と同じ意味しか持たない。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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