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第311回 ソフトウエアの特許侵害(前半)/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年3月24日_記事番号:T00095243

産業時事の法律講座

第311回 ソフトウエアの特許侵害(前半)/台湾

 今回は実際にあった事案を基に説明します。特許の発明者は台湾大学新聞研究所の彭教授です。ソフトウエア開発は彭教授の研究分野や業務範囲ではありませんが、2000年初め、彭教授は筆者に「自動化アンケートソフトウエア」の特許出願を依頼しました。

アンケートのサンプル収集

 「アンケート調査」の理論によると、インターネット上のアンケートは学術規範に沿ったものではありません。その主な問題は、サンプルのバックグラウンドの情報が確実でない、重複回答が可能などです。

 彭教授は次のことに気づきました。

1.会員制のグループでは基本的に正確な会員データを収集しているものの、サンプルに代表性がないという問題がある。

2.しかし、会員数が非常に多い場合、会員の分布は、ランダムセレクション(無作為抽出)の基準を満たす。

3.インターネット技術によって、大勢の会員の管理が可能となったため、会員制グループに対するアンケート調査は信頼性(Reliability)と妥当性(Validity)の要求を満たし、迅速で分析が容易というメリットがある。

装置として特許出願

 さて、前述のような発明は一種の技術上の理論であり、科学的原理です。とても偉大な発明なのですが、特許出願はできません。そこで筆者はこの技術理論を実現させる「機器」、すなわち一種の「インターネットのデータ収集方法および装置」として特許を出願することとしました。この装置には次のものが含まれます。

1.アンケート作成装置

 利用者の操作により電子アンケートを自動で作成する装置で次のものを含む。

・アンケート作成インターフェース(利用者によるアンケート作成に供されるデバイス)

・アンケート作成器(アンケート内容および回答のフォーマットを自動で作成)

・回答者データベース(回答者のデータ保存)

2.アンケート回収装置

 回答を自動回収、処理する装置で、次のものを含む。

・回答者グループ分析器(回収した回答について、回答者の所属するグループを分析)

・データ処理器(回収した回答の内容を適切なフォーマットに変換)

3.検索インターフェース(利用者による検索を提供)

 本特許は、名称上は一種の装置としていますが、実際は全てソフトウエアで、ソフトウエア特許です。実際の請求項1の内容は上に記した通りで、読点など含めても291文字しかありませんでした。

 しかし、当時はこのような特徴を備えた機器は存在しなかったため、同特許は02年11月に認められました。

特許侵害を証明

 この特許が公告されるとすぐに、ある業者が異議を唱えましたが、経済部智慧財産局(知的財産局、TIPO)は04年9月に異議の不成立を審定しました。彭教授はシステムの特許取得後からPRを始めましたが、思ったほどの反響を得られず、むしろ権利を侵害されることとなりました。

 09年10月、彭教授が再度筆者の元を訪れ、被告企業が同特許を侵害し、「104オンラインアンケート調査サービス」を提供していると伝えてきました。彭教授は弁護士名義で文書を送りましたが、相手側はそれを無視しました。

 09年12月、筆者は彭教授の代理人として智慧財産法院(知的財産裁判所)に訴訟を提起し、被告企業に対して権利侵害の停止と、200万台湾元(約760万円)の損害賠償の支払いを求めました。

 同特許は09年6月、またしても特許無効審判を提起されましたが、智慧財産法院は知的財産局による審定を待つことなく、10年7月に判決を下しました。同無効審判には12年になってようやく不成立の審定が下りました。

 起訴準備作業は証拠の収集がメインとなりました。筆者らはまずアカウントを登録し、同サービスを利用できるようにしました。そしてアンケートを設計し、同システム上でアンケートを作成。被告企業の会員に対してそれを実施、回収した後に同システムによる分析を行いました。またその過程を全て記録しました。

1.この過程で、同システムにはアンケート自動作成機能があることが分かりました。アンケート作成インターフェースおよびアンケート作成器が備えられており、利用者はそれを利用してアンケートを設計し、自動でそれを作成することができるからです。また、回答者データベースも備えられており、利用者はアンケートを随時、被告企業の会員に送ることが可能でした。

2.同システムには、▽アンケート回収装置▽データ処理機▽回答者グループ分析器──が備えられており、自動で回答を収集し、自動で回答者のグループを分析することが可能でした。検索に便利なインターフェースも提供していました。

 本件特許は特許侵害の証明がとても容易です。なぜならば、特許範囲を構成している技術的特徴がとても少なく、その全てに外見上の表象があるからです。同システムのデバイスを観察すれば、直接的な証明、または同システムの個々の部分がどうなっているのかを推測することが可能なため、▽複雑かつ高価なリバースエンジニアリング▽パケットの傍受▽秘密保持処置のハッキング──などの証拠収集プロセスを経ることも、専門家に依頼して分析レポートを作成してもらう必要もありません。

 訴訟提起後、被告は特許の無効や権利侵害について多くの抗弁を行いませんでした。裁判官は、被告企業のホームページ上に公告されていた顧客数と定価から被告の利益が1,000万元に上ると認定し、彭教授の全面勝訴を判決しました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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