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第313回 競争相手の特許が無効であることを発見したとき/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年4月28日_記事番号:T00095824

産業時事の法律講座

第313回 競争相手の特許が無効であることを発見したとき/台湾

 今回は特許情報を有効利用した実例をご紹介します。

 世界各国・地域の特許情報は全て無料でインターネットサイト上に公開されており、多くの人がサイトで自社製品または特許と関連する可能性のある特許事案を検索しています。しかし特許情報の用途はそれだけではなく、自らの競争力を強化することにも利用できます。

審査過程からあら探し

 ある日、顧客Aより筆者に、パワー・オーバー・イーサネット(PoE)コントローラーICを開発したが、業界大手の米国企業の特許技術を使用していることが分かり、販売できずにいると連絡がありました。

 通常、このような連絡を受けた弁護士は、本件特許を認可した当局のサイトを確認し、審査の過程の文献を確認します。特定の特許を各国・地域で申請する際、審査官がどのような特許の前例に基づいて申請案を棄却したかを理解するためです。

 しかし、業界大手企業の大部分は、同一の技術について複数の特許を申請し、また一つの特許を多くの国・地域で申請しているものです。このような案件の検索に便利なのが欧州特許庁のサイト「ESPACENET(エスパスネット)」です。

 ESPACENETは、パテントファミリーの情報を提供しているため、一つでも特許を見つければ、そのパテントファミリー全てのデータと、個別の申請・審査の履歴、法的地位の状態まで確認することができます。

 また、同サイトにはレベルの高い翻訳機能が備わっており、利用者にとって不慣れな言語の翻訳に重宝します。審査官が引用した文献、または審査文献で使用した言語をサイト上で直接翻訳することができるため、文献検索の効率が確実に高まります。

 特許関連サイト自動翻訳機能は、多くの特許事務所から翻訳業務の機会を奪ってしまいました。

 もし、特許の申請前に同様の技術が公開されていないかどうかを検索するのであれば、グーグルの特許検索サイトが便利です。

 特許を検索する際、「正しい」検索キーワードを入力すれば、適切な数量の関連文献を探し出すことができます。最も簡単な方法は、検索する特許の「摘要」を直接検索することですが、この間抜けな方法が成功するかどうかは運次第でしょう。なぜなら、特許の摘要は多くの場合、発明の真に重要なポイントを記載していないからです。たとえ摘要にポイントが含まれていたとしても、大量の文献が検索結果に上がってしまえば、利用価値はありません。

 さて、本件についてグーグルの特許検索サイトで検索した結果、211件の関連特許がヒットしました。検索範囲を狭めた結果、18件の特許がヒットし、そのうちの10件は本件特許のパテントファミリーでした。

 その他8件の特許を見たところ、うち特許Xは、発明内容が本件特許とほぼ相同であると気付きました。両者の主な違いは、同一の技術に対する記述方式と使用されている専門用語でした。

 これは特許の記述方法としてはよくあることです。特許を専門とする弁護士は特許説明書を書く際、特許の範囲を拡張するため、または競争相手の検索を難しくするため、「上位の概念」や「効能的描写」を使用します。使用する語句や描写が異なるため、同じ技術や部品でも違った表現となります。

棄却されたら修正を

 本件特許について、米国での申請・審査の履歴の中から、審査官が第1次審査意見書で特許Xを引用し、本件特許に進歩性がないと判断していたことを発見しました。履歴によると、審査意見を受け取った申請者は答弁せず、申請する特許の範囲を修正することで、引用された特許Xの影を消し去りました。審査官はこれに何らの異議を唱えず、本件特許を認可しました。

 これは特許申請の際によく見られるテクニックです。無理をして答弁しても、そもそも同じ内容のものであるため、審査官が受け入れるはずがありません。再度棄却された審定書(審決書)や、審査意見書を、将来、競合相手方に入手され、特許が無効であることの証明に利用されるぐらいなら、むしろ答弁せず、用語の修正でごまかして特許を取得する方を選びます。

 この重要な事実の発見から、筆者は顧客Aに次のようにアドバイスしました。

1.特許を専門とする米国の弁護士に法律意見書を書かせ、本件特許は特許Xと同じであり、本件特許が無効であることを証明する

2.顧客Aの技術のうち、本件特許、特許Xと異なる部分について特許を申請する

 顧客Aの特許が認可されれば、同社が開発したPoEコントローラーICは自由に販売できるようになり、業界大手の米国企業からの特許侵害の主張におびえずに済みます。

 一方で筆者は、顧客Aに米国へ出向いて本件特許を無効にするとのアドバイスはしませんでした。無効を公開しない方が、顧客Aにとって利益になるためです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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