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第316回 模倣品販売のネット詐欺罪/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年6月9日_記事番号:T00096617

産業時事の法律講座

第316回 模倣品販売のネット詐欺罪/台湾

 2016年2月、商標法の前科がある呉政澔は電子商取引(EC)サイト「蝦皮購物(ショッピー)」でフランスの老舗レザーグッズブランド「LONGCHAMP(ロンシャン)」のバッグを販売する際、「フランスで購入したLongchamp lepliage cuir 黒羊皮/小型」との広告を掲載しました。林琦軒はバッグが本物かメッセージで確認したところ、呉から「本物です。ご安心を」との返信があったため、6,700台湾元(約2万7,000円)でバッグを購入。その後7,200元で林姿青に転売しました。林姿青はバッグが模倣品と気づき、警察に通報しました。

重罰詐欺罪を構成するか

 被告人の呉は台北地方法院(地方裁判所)で「バッグが模倣品とは知らなかった」と抗弁しました。裁判所は19年12月の判決で、被告人の販売価格と本物の価格に大きな差があること、被告人には商標法の前科があることなどから、被告人は模造品と知っていたと判断しました。

 裁判所は、被告人は模倣品販売による商標法違反のほか、刑法上の「重罰詐欺罪」、つまり「ラジオ、テレビ、電子的通信、インターネット、その他メディアなどの伝達方法によって公衆に散布し行う」詐欺罪も構成しているとしました。

 また、たとえ被害者が被告人の「本物です。ご安心を」とのうその陳述によって騙されたとしても、詐欺に該当する情報を公開して掲載した時点で同罪は成立すると判断しました。

 被告人の控訴を受け、知的財産裁判所は20年7月に有罪判決を下しましたが、罪名は変更しました。

 判決は、▽被告は「フランスで購入」と掲載したが、本物との価格差が大きく、一般人は本物かどうかを疑うはず▽被害者が騙されたのは、その後の被告人の返信内容によるため、重罰詐欺罪には該当せず、普通詐欺罪となる──としました。

 被告人は被害者と和解していたため、一審の懲役1年4月から4月に変更しました。

不特定多数を騙す意志の有無

 被告人は18年2月に再度、オークションサイトに「専門代理購入の正規品MCM BIG BANG韓国LV牛皮基本型小銭入れ」と掲載したため摘発され、前案との合併審理が行われました。智慧財産法院(知的財産裁判所)は、被告人は「売り場に『正規品』と掲載し、強調しており、偽物を本物であるかのように見せ、不特定多数の人を騙す意志があったことは明らか」とし、重罰詐欺罪を構成していると判断しました。しかし、検察側が騙された人がいることを証明できなかったため「詐欺未遂」として懲役8月となりました。

 これら2つの判決は21年5月、最高法院(最高裁判所)が上告を棄却し、確定しました。最高法院は智慧財産法院の判断を支持しました。本案件の処理方法は今後、模倣品販売事件のモデルとなるでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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