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第310回 外国企業が台湾で訴えられたら/台湾


ニュース 法律 作成日:2021年3月10日_記事番号:T00095009

産業時事の法律講座

第310回 外国企業が台湾で訴えられたら/台湾

 外国企業とその取引先の台湾企業との間で取引上の紛争が発生した場合、台湾の裁判所から召喚状が届き、出頭を命じられるかもしれません。その際、被告は有効な抗弁を行うことで、相手側に自らの所在地にある裁判所で起訴させることはできるのでしょうか。

 外国企業が台湾で応訴する必要があるかどうかは、裁判所の「国際管轄権」の問題です。裁判所の管轄権は国家主権の行使なので、台湾の裁判所は通常、案件または当事者と台湾との連結関係、つまり基本的連結関係があれば、台湾の裁判所に管轄権があると判断します。

連結性を総合判断

 2019年、ベトナム人7,874人が弁護士に委託し、台湾塑膠工業股份有限公司(フォルモサ・プラスチックス、台塑)など複数の企業が出資するベトナム・ハティン省の台塑河静鋼鉄興業責任有限公司(フォルモサ・ハティン・スチール、FHS)が有毒な排水を垂れ流し、被告らの健康と作業権を侵害したとして、1億4,000万台湾元(約5億4,000万円)の損害賠償を求める訴訟を、台北地方法院(地方裁判所)に提起しました。

 台北地方法院は、被告らの国籍が多数にわたっていること、侵害行為地がベトナムであることを理由に、台湾の裁判所には管轄権はないとしました。

 抗告裁判所も同意見でしたが、再抗告を受けた最高法院(最高裁判所)は20年11月、台湾高等法院(高等裁判所)が引用した条文は台湾国内の裁判所の管轄に関するもので、「国際裁判管轄規範」に関するものではないと指摘。裁判所は次の原則に則り、管轄権の有無を決定する必要があるとしました。

1.案件の国際民事訴訟利益および案件と法廷地の連結性に基づいた総合的な判断

2.民事訴訟管轄規定および国際民事裁判管轄規範の法理を斟酌(しんしゃく)

3.当事者間の実質的公平性、訴訟プロセスが迅速かつ経済的に進められるかなどの要素の考慮

履行地の裁判所に管轄権

 全億国際企業有限公司は19年、PHILLIPS FASTENER, LLC社に売買代金の支払いを求め、台北地方法院に訴訟を提起しました。

 第一審および第二審は共に、▽被告は外国企業である▽原告は契約履行地が台湾であることを証明できない──ため、台湾の裁判所には管轄権がないとしました。

 しかし最高裁は21年2月、▽双方当事者間では同じ契約関係で既に多くの売買実績がある▽買方は常に代理人の永豊商業銀行(バンク・シノパック)台北支店の口座に振り込んでいた──ことから、双方の合意履行地は台湾であり、台湾の裁判所には管轄権があるとして、原決定を破棄しました。

訴訟の利便性を損なわないか

 林源薪は林富増、林富東らと共同で、中国海南省に水産加工会社を設立し、株式は林富増名義で登録していました。そこで、自らの持ち分が20%あることの確認を求め、台東地方法院に訴訟を提起しました。

 台東地方法院は、同社は中国にあるため台湾の裁判所に管轄はないとしました。一方、台湾花蓮高等法院は19年の決定で、林富東、林源薪の戸籍の状態および林源薪の出入境記録から、「林源薪が台湾で訴訟プロセスを行うことは不便である、また、プロセスが迅速かつ経済的に進められないなどの事情はない」と判断し、台湾の裁判所の管轄権を認めました。最高法院も20年3月の決定で支持しました。

 15年4月、71180号漁船が北緯32.313度、東経124.095度の海域でタンカー「Miyaku Maru」と衝突し、沈没しました。被害を受けた漁船の船主である中国栄成市石島漁港有限公司は、タンカーの所有者RICH GAINER INTERNATIONAL LIMITEDへの賠償を求め、士林地方法院に訴訟を提起しました。

 同裁判所は、▽当事者がいずれも台湾人ではない▽衝突海域は台湾の領海ではない▽被害漁船は衝突後すぐに沈没したため、「初めの到達地」も存在しない──などを理由として、台湾の裁判所には管轄権がないとしました。

 原告はこれを抗告しましたが失敗。加害者であるタンカーは、事件後台湾の海巡署に留め置かれているため、台湾には「加害船舶留め置き地」という連結関係があるとして最高法院に再抗告を申し出ました。しかし最高法院は、タンカーは海巡署で監護された後、既に台北港を離れており、留め置きの状態にはないとして、台湾との連結関係を否定しました。

 これら最近の最高裁判決からは、事件が台湾との間で基本的な連結関係にあれば、裁判所の管轄権を認めることが分かります。中でも、被告が台湾にいる、履行地が台湾である場合には、全て管轄権が認められています。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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