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第302回 親告罪と委任状/台湾


ニュース 法律 作成日:2020年10月28日_記事番号:T00092834

産業時事の法律講座

第302回 親告罪と委任状/台湾

 刑法上の親告罪とは、被害者の告訴がなければ、たとえ刑事処罰を受けるべき犯罪であっても検察は起訴できず、裁判所も判決を下せないというものです。通常、親告罪の犯罪は傷害や著作権侵害など、私権を侵害するだけで、公共の利益とは比較的関係がない犯罪です。被害者が、刑事制裁が必要かどうか決めることを、法が認めているわけです。

 告訴の要件は、犯人を知った日から6カ月以内に、司法警察官または検察官に対して「犯罪を追訴してほしい」という意思を示すことです。弁護士に委任する場合は、委任状が必要です。

 何らかの理由で弁護士が告訴する際に委任状を提出しないことがありますが、検察官による起訴以前に提出すれば間に合います。しかし、検察官が告訴人を尋問せず起訴をした、または6カ月を過ぎてからそれを尋問し、被害者がその後に委任状を提出した場合、告訴を行ったことになるのでしょうか?

起訴後に告訴できる場合

 最高法院(最高裁判所)は2016年、ある交通事故の案件で次のように判断しました。

1.検察官は非親告罪で起訴したが、裁判所による審理の結果、親告罪であるとされた場合、起訴後であっても告訴の補正を許可しなければならない。

2.捜査段階に意識が戻らない被害者の両親が告訴した場合は合法ではないが、両親が起訴後に被害者が成年被後見人となった場合、先に提出されていた告訴は有効になる。

3.親告罪の罪について、告訴できるものが存在しない、または告訴権を行使できない場合、検察官は代行告訴人を指定することができるが、同指定は起訴後でも可能である。

1)このような見解に基づいて、台湾高等法院(高等裁判所)台南分院は20年8月、ある交通事故の案件で次のような判断を下しました。

・アルツハイマー病を患い、話ができない被害者について、その娘が検察官に対して告訴した段階では合法ではないが、告訴期間である6カ月が過ぎた後、代行告訴人に指定された同娘が行った代行告訴は合法なものとなる。

 同様の見解に基づいた判断としては次のようなものがあります。

2)台湾高等法院高雄分院は20年10月、ある名誉毀損案件において次のような判断を下しました。

・委任状は意思表示が明確であることの作用しかないのであるから、記載に誤りがある、または表記方法が正しくない場合でも、審判中に補正が可能である。

3)智慧財産法院(知的財産裁判所)は20年7月、ある著作権法違反案件で次のような判断を下しました。

・告訴代理人が告訴した段階でその許諾を受けていれば、▽後に提出された許諾書が(告訴より)後で製作された▽記載されている日時が6カ月の告訴期間より後のものである▽告訴人企業の法定代理人が告訴提出当時と異なっていた──としても、同告訴は有効である。

4)台湾高等法院高雄分院は19年11月、ある交通事故案件において次のような判断を下しました。

・弁護士は被害者の押印がある委任状を提出したが、被害者は事故後に意識が戻っていないことから、それは有効な委任ではなく、弁護士による告訴は合法なものではない。

刑事告訴は口頭で可能

 前述の最高法院の16年の判決以前には、全ての裁判所は、弁護士による委任状の提出は告訴の必要条件であり、親告罪の案件については、委任状に何らかの問題がある場合には、6カ月以内にそれを補正しなければならないと認識していました。

 このような過去の見解は正しいものではありません。なぜならば、民法の規定によれば、法律行為が書面でなければならない場合、他者に法律行為を委託するには、必ず書面でなければなりません。しかし、刑事訴訟法の規定では、刑事告訴の形式は「言詞(口頭)で行う」となっていますので、委任を受けた弁護士による刑事告訴も口頭で済みます。委任状はただ委任を受けたことの証明文書であり、事後の提出でも構いません。

 海外の企業が台湾で訴訟を行う場合、委任文状の提出で悩みを抱える場合が多いようですが、この台湾の裁判所の最近の見解を参考にしてください。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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