ニュース 法律 作成日:2020年8月26日_記事番号:T00091781
産業時事の法律講座多くの人が商標について、▽登録すればすぐに商標権が発生する▽他者はその商標を使えなくなる▽許可なく使用した場合には刑事責任を負う──と思っているのでないでしょうか。しかし実際のところ、商標権は商標登録をしただけでは発生しません。商標権はのれん(商業上の信用)に基づく必要があります。また商標権の強度と、権利者が使用する商標の強さには極めて高い相関性があります。
原告の李淑如は、桃園で「李記南台湾鱔魚(タウナギ)麺」を16年以上経営しており、登録商標「李記南台湾鱔魚麺および図」の登録者です。一方、被告の朱沅諺は原告の大竹店の従業員でしたが、離職後の2018年に桃園市内で「永記南台湾鱔魚麺」の店名で鱔魚麺店を開店しました。
原告は、▽被告の店名は原告のものと近似しており、消費者を混交、誤認させる▽被告は故意に原告ののれんを利用し、原告の努力の成果と商業利益を搾取している──などとして、商標法および公平交易法(公平取引法)の規定により、被告に対して損害賠償20万台湾元(約72万円)と、看板の撤去および「永記南台湾鱔魚麺」の商標の使用停止を求めました。
消費者を誤認させるか
智慧財産法院(知的財産裁判所)第一審は19年8月、次のような理由から原告勝訴の判決を下しました。
1.双方の看板は、「李記」と「永記」が異なっているほかは、字体、色、文字配置が極めて似ている。旧価格表や旧メニューも似ている。住所も非常に近い。
2.「南台湾鱔魚麺」は被告の主要な商品ではないにもかかわらず、被告はこの商品名を最も大きくかつ目立つ字体で、看板の最も目立つ場所に表示している。このことからも、「南台湾鱔魚麺」は被告が主張するような「商品説明」などではなく、その商品の起源や営業主体をアピールするために使用していることが分かる。
3.被告は原告の大竹店および係争商標を高度に模倣し、取引相手または潜在的取引相手に被告の大竹店で販売している商品は、原告の大竹店のものと同一の起源、同系列の製品である、または関係企業、加盟店、ライセンス関係があると、誤認させるものとなっている。
4.被告の原材料使用量と、被告が認めた売上高から、被告の不法利益は原告が請求した20万元を超えている。
取引秩序に影響があるか
この判決を不服とした被告は控訴しました。知的財産裁判所第二審は20年4月、次のような理由から原告の請求を棄却する逆転判決を下しました。
1.「李」とは名字であり、「李記」とは飲食サービス業で、その経営者の名字が「李」であることを示しているにすぎず、そのような名称を独占使用することはできない。また、「南台湾」とは台湾南部を示し、「鱔魚麺」はひとつの食品名である。これらについても識別性を持たず、独占使用することはできない。したがって、原告は商標「南台湾鱔魚麺」について、他者の使用を排除することはできない。
2.被告の商標は「永記南台湾鱔魚麺」であり、原告の商標との区別は十分につき、消費者を混交させる恐れはない。また看板の文字配置が近似していることについては、原告の看板と他の飲食店の看板に大きな区別があるものではなく、原告のオリジナルでもない。したがって、被告が原告の看板を模倣したとは言えない。これは旧価格表についても同じである。
3.本件は、原告の大竹店と被告の大竹店の間で発生した小規模な係争である。このような係争は「取引秩序に十分な影響を与える」ほどのものではないため、公平取引とは関係はない。
原告はこの判決を不服として最高法院(最高裁判所)に上告しましたが、同裁判所は20年7月に訴えを退けました。同裁判所は判決で、第二審と同様に、「本件は上告人(原告)大竹店と被上告人(被告)大竹店の間で発生した小規模な係争であり、上告人は同係争が『取引秩序に十分な影響を与える』ものであることを証明していない」と強調しました。
本案件からは、ただ単に商標を登録しただけでは商標権は発生しないことが分かります。小規模な経営からは大きな範囲の商標保護は生まれないのです。商標権の保護も、「分相応」でなければなりません。
徐宏昇弁護士
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