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第297回 雇用関係なくとも営業秘密の守秘義務あり


ニュース 法律 作成日:2020年8月12日_記事番号:T00091536

産業時事の法律講座

第297回 雇用関係なくとも営業秘密の守秘義務あり

 営業秘密は通常、契約関係によって発生します。例えば企業間で技術開発を行う場合や、企業が専門家や職員を雇用して新製品の開発を行う場合などです。こうした場合、双方は契約によって営業秘密の帰属、利用権の分割を定め、秘密を守ることを約定します。

 台湾の最高法院(最高裁判所)は最近の判決の中で、当事者間に秘密保持の義務があるかどうかは、双方に雇用関係があるかどうかと無関係という一歩進んだ判断を示しました。

共同開発でのトラブル

 耀徳生物技術(以下「耀徳生物」)は2015年、台北地方法院(地方裁判所)に対して民事訴訟を提起し、次のように主張しました。

 ▽被告である徐鳳麟は耀徳生物の設立者で、台北医学大学の教授でもある▽12年、被告は原告企業を、台北医学大学が執行する行政院国家科学委員会(国科会)の研究プロジェクト「HSTD衍生物の最適化およびその改善代謝症候群の作用機転の検討」に加入させた▽原告は同年8月13日、被告および台北医学大学との間で、被告が同プロジェクトのメイン担当者となり同計画を執行することについて契約を締結した▽原告はヒト、資金を投入し、プロジェクトの第1段階を完成させたが、被告は完全な成果報告を原告に対して提供しなかった。さらには原告に対して「同プロジェクトは継続して執行されている」「国科会に対して補助を申請するな」などと求めた▽原告がこれに同意し、被告は14年6月23日に台北医学大学の名義を使い、原告との間で「台北医学大学は被告の研究開発(R&D)成果についての機密資料を原告に提供することに同意する」との記載のある秘密保持契約を締結した▽その後、原告が調査した結果、台北医学大学は同契約の締結に同意していなかった──。

 原告は被告の「詐欺」を理由として同契約を取り消し、また同時に「債務不履行」の規定により契約を解除すること、および損害賠償を求めました。

 これに対して被告は次のように答弁しました。▽同契約は原告と台北医学大学の間で締結されたもので、被告は契約当事者ではない▽契約の規定によれば、研究開発の成果は台北医学大学に帰属し、原告は優先的な技術移転の権利を得るだけである▽原告は同技術移転契約をまだ締結してはいない──。

詐欺とは言えず

 台北地方法院は17年1月、次のような理由により原告敗訴の判決を下しました。

1.原告と被告が台北医学大学との間で締結している契約には、研究の成果と知的財産権は全て台北医科大学のものであるとの規定が設けられているため、原告は同大学との間で技術移転および権利義務に関連する合意を得なければ、その研究開発成果を取得することができない。

2.同契約には被告の報酬についての約定は設けられておらず、また被告が原告のために一定の目的をもった事務処理を行うことも要求していない。このことからも、双方の間には請負契約または委任契約が存在しないことが分かる。そのため、被告が実験の手稿および研究プロジェクトの完全な成果報告を交付しなかったことは違約とはならない。

3.14年の秘密保持契約書には「甲:台北医学大学 代表者徐鳳麟 役職 教授」と記載があり、被告だけが署名押印しているため、台北医学大学が同契約の当事者であるとは見て取れない。このことから、被告が台北医学大学を代表して同契約を締結したと詐称していないことが分かる。

4.原告は生物科学産業に従事しており、生物科学の研究開発は必ず成果があるわけではないことは理解しているので、原告がヒト、資金を投じたのは、「一切の利害、得失、リスクを詳細に評価した上」でのことであり、詐欺とはなり得ない。

営業秘密法を適用

 この判断を不服とした原告は台湾高等法院(高等裁判所)に控訴しましたが17年10月に、第一審とほぼ同様の理由から控訴棄却の判決を受けました。そのため、再度最高法院(最高裁)に上告を行いました。

 同裁判所は20年7月、次のような見解から原判決を破棄し、案件を原審に差し戻しました。

1.14年より後の研究については、原告と台北医学大学との間の契約関係によるものではないことは明らかである。被告が当時、自らと原告の間で秘密保持契約を締結し、同研究開発の成果を被告から交付するとしたのであれば、原告には被告にそれを求める権利がある。

2.原告と台北医学大学との間の契約が終止した後、原告と被告との間での共同研究開発となったのであれば、そこで得られた研究開発の成果は営業秘密法第2条にいう営業秘密であるから、双方間にその権利が原告に属するとの約定があるのであれば、被告は個人名での特許申請を行うことはできない。

3.営業秘密法の関連規定は、雇用関係の存在いかんとは関係はない。そのため、原審が、被告は原告の雇用した研究開発人員ではないため、営業秘密法の適用がないと判断したことには議論の余地がある。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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