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第238回 セットトップボックスによる著作権侵害


ニュース 法律 作成日:2018年1月10日_記事番号:T00074922

産業時事の法律講座

第238回 セットトップボックスによる著作権侵害

 台湾では最近、インターネットに接続するだけで、無料で映画や有線テレビ、衛星放送を視聴ができる、いわゆる「セットトップボックス(以下「STB」)」が流行しています。しかし、STBなどの製品は、過去に知的財産裁判所によって著作権侵害製品であることが認定されているので、販売者は刑事責任を負うことになります。

無料視聴、大部分が違法

 テレビ番組を視聴することができるSTBには、販売メーカーがテレビ局からライセンスを取得し、合法的な有線放送を行っているところもありますが、多くのSTB販売メーカーは、ライセンスを取得していないばかりか、視聴に必要な費用も支払っていません。通常、テレビ局に支払うべき費用は高額なため、「無料で視聴」を売りにしているSTBメーカーはほとんどの場合その費用を支払っていません。

 STBはその構造上はスマートフォンやタブレット端末、パソコンなどと同様のインターネットに接続できる機械ですが、より映像と音楽の視聴に特化された構造となっています。

 通常、この種のSTBの内部には、無料で映画や音楽を楽しむことができるサーバーにアクセスする機能が内蔵されているため、使用者はそれらのサーバーにおいて番組や映画を視聴したり、ダウンロードできるようになっています。

 STBが他の機器と最も異なる点は、テレビの視聴機能が内蔵されており、リアルタイムで「現在放送中のテレビ番組」を視聴できる点です。

 実際に観測したところ、一般の方式によるテレビ視聴と、STBを使用した視聴では、約3分から4分ほどのタイムラグが発生していました。これはSTBメーカーがテレビ局から番組内容を受信した後、その内容をサーバーにアップロードするためにかかった時間と推測されます。

公開転送の証明できず無罪?

 2012年11月1日、多くのテレビ局からの告訴を受けた検察と警察は、台北、台中、台南において全視福有限公司(以下「全視福」)の営業拠点を家宅捜索し、大量のSTB「C-820高清播放器」およびパンフレットや、会計関連書類などを押収しました。

 これにより同社が、中国から輸入したSTBを2,000台湾元(約7,600円)で販売していたほか、使用者が毎月430元の使用料を支払えば告訴人らのテレビ番組を視聴できるというサービスを、各テレビ局のライセンスを受けずに行っていたことが明らかになりました。検察は同社の責任者、技術担当者、営業担当者などを著作権法における「許可を得ずに公開転送をしたことにより他者の著作財産権を侵害した罪」で起訴しました。

 台南地方裁判所は15年7月、次のような理由で被告無罪の判決を下しました。

 検察が提出した報告書によれば、同STBでテレビ番組を視聴する際には特定のサーバーにアクセスする必要があり、また同サーバーは「不特定多数の者が一般のコンピューターを使用して映像サービスを受けることができるサーバーではなく、全視福のSTBを使用し、かつ全視福に対して費用を支払った後でなければ視聴することができないようになっている」。

 しかし、同報告からは使用者が受信したテレビ番組の内容が同サーバーに確かに存在していることの証明が行われていないため、被告がそれらのテレビ番組を同サーバーにアップロードし、同サーバーから「公開転送」したことは証明できない。

視聴の事実

 検察は罪名を「著作を公開転送することが可能なコンピュータープログラムその他の技術を公衆に対して提供する罪」に変更した上でこれを控訴、知的財産裁判所は16年6月、次のような理由により、逆転有罪判決を下しました。

1.いわゆる「公衆に対して提供する」とは、(STBの)使用者が、実際に転送または受信を行うことを要件としておらず、転送または受信可能な状態にあればよい

2.調査局の報告には、同STBの「TV」、「VOD」機能は、特定のサーバーからP2P技術によって映像をダウンロードするものであり、不特定の使用者が一般のPCなどを使用して映像を取得できるものではない

3.確かに使用者が受信した映像が同サーバー上に存在しているかは証明されていないが、全視福のユーザーは、同社のSTBを使用しなければ同サーバーにアクセスし、同サーバーを通して使用者が視聴したい映像データを転送取得できない。これらのことから、被告らが、著作を公開転送が可能な技術を公衆に対して提供したことが認められる

 被告は、STB自体はただのハードウエアであり、顧客がそれを用いて著作権侵害の放送を受信するかについては被告の知るところではないと抗弁しました。これに対して裁判所は、「被告らがSTBの技術を完全に理解していたわけでないとしても、顧客が同STBのシステムを用いて、別途費用を支払うことなく、本来であれば費用を支払わなければ視聴することができないテレビ番組を視聴していたこと、またこれら一連の動作は、同STBが提供している技術を使用しなければできなかったこと」から、被告は同STBの機能が著作権を侵害する番組の受信にあることを知っていたと判断しました。

 一方、STBの「オンライン映画館」機能について裁判所は、使用者が中国のサーバー「快播網」にアクセスして映画を視聴するもので、この機能はスマートフォンのそれと同様であることから、「全視福のSTBを使用しなければ快播網の映像を視聴できないわけではない」とし、無罪としました。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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