ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム グループ概要 採用情報 お問い合わせ 日本人にPR

コンサルティング リサーチ セミナー 経済ニュース 労務顧問 IT 飲食店情報

第240回 不正登録されたドメイン名の取り消し


ニュース 法律 作成日:2018年2月14日_記事番号:T00075567

産業時事の法律講座

第240回 不正登録されたドメイン名の取り消し

 検索エンジンやコンテンツ連動型広告などの普及により、「ドメインネーム」は以前ほど重要と思われていないかもしれません。多くの人は、現在閲覧しているホームページのドメインネームですら知らないことがほとんどです。

WIPOで紛争解決

 台湾で不正登録または不正使用されている「.tw」のドメインネームについて提起された紛争解決案は、2016年には18件、17年は10件と、年間十数件ほどですが、ジュネーブに本部を置くWIPO(世界知的所有権機関)のドメインネーム紛争解決処理センター(以下「紛争処理センター」)が処理したドメインネーム紛争解決案は10年に2,500件を超え、16年3,036件、17年3,074件と3,000件を超えています。

 WIPOの紛争処理センターの業務は、統一ドメイン名の紛争解決ポリシー(UDRP)に基づいて、「ジェネリックトップレベルドメイン」、すなわち「.com」「.gov」「.store」「.biz」などに係るドメインネームの紛争を解決することです。また、一部の国では国内にこれらのドメインネームに係る紛争を処理する機構が設けられていないため、その国の国名コードなどのトップレベルドメインに係るドメインネームの紛争は、WIPOの紛争処理センターで処理しています。インターネット後進国ばかりでなく、オランダ、スペイン、メキシコ、コロンビア、豪州などが含まれ、每年の案件数は300件を超えています。

 WIPOの統計によると、同紛争処理センターが処理する案件数は全世界の案件総数の約55%で、昨年は世界中で約6,700件のドメインネームの紛争解決案が処理されたことになります。

商標権者の提訴のみ対象

 大部分の国で適用されているドメインネームの紛争解決処理に関する規定は、前述のUDRPに若干の改正を加えたものとなっています。UDRPが対象としている紛争案は「商標権者」がその商標を侵害するドメインネームに対して提起する訴えに限られています。例えば公平取引法などに係るもので、商標権に関わらない紛争については、ドメインネーム登録者の属する国、または関連ホームページにより損害を被った国に対して訴訟を提起して解決するしかありません。

 UDRPは簡単明瞭な商標権関連案のみを処理するために、その訴えの要件については、以下のような厳格な規定が設けられています。

1.申請者が商標権を所有していること

 ここでいう商標権には登録商標のほか、登録が行われていない商標である「普通法商標」(common law trademarks)も含まれる

2.ドメインネームの登録者(紛争の相手方)が登録したドメインネームと申請者の商標が相同または近似していること

 ここでいう「近似」とは「混交を生むに足る近似」を指す。また、「trademarksucks.com」(sucksはスラング)など、申請者の商標にマイナスイメージを与える方法で登録されたドメインネームについても、通常は近似を構成していると判断される

3.ドメインネームの登録者がドメインネームに関して正当な権益を持っていないこと

 これについては、挙証責任は原則として申請者にあるが、登録者が自らに合法的な権益があることを証明できない場合、自らに不利益な結果を招くことになることがある。登録者は通常、自らの登録商標を提出したり、または同商標に対する先使用権を有していることや、同ドメインネームを使用したホームページが商標登録以前に正当に同ドメインネームの使用を開始し、かつその状態が継続していることなどに関する証拠を提出することで、自らに正当な権益があることを証明することができる

4.ドメインネームの登録者が同ドメインネームに関して「悪意をもった登録」や「悪意のある使用」をしていること

 これには、ドメインネームの登録者が同ドメインネームを商標権者に高値で売却すること、または商標権者による商標の使用を妨げる、もしくは消費者をだますことを目的としてその登録を行った場合などが含まれる

 前述のように、UDRPの目的はドメインネームに関する明確な紛争を迅速に解決することにあるため、法廷などが開かれることはなく、書面審査しか行われず、また、通常は理由や答弁の補足も許されません。そのため、もし一歩進んだ弁論や挙証が必要な場合には、同紛争に関して管轄権を持つ裁判所に対して訴訟を提起することになります。

申請者が勝つ可能性高い

 WIPOの統計によると、16年では約20%の案件は紛争解決機関による決定が下される前に当事者間で和解に達したか、訴えが取り消されています。また、決定にまで至った案件に関しては、13%が訴えを棄却し、86%が申請者に対するドメインネームの受け渡しを認め、1%がドメインネームの登録を取り消しています。実際には、決定まで至った案件中、85%を超える案件において、ドメインネーム登録者は答弁を提出していませんでした。このことから、WIPOでの案件には、ドメインネーム登録者が答弁を行わず、申請者の勝利となる可能性が高いことが分かります。

 WIPOに対する訴えの提起に際しては、いかなる国の弁護士でも代理となることができます。また、申請者が勝つ可能性が高いことから、申請者の関心は通常、弁護士費用に集約されます。この点、台湾の弁護士は外国語力が高く、費用も相対的に安価であるため、WIPOに対して訴えを提起する際には台湾の弁護士を代理とすることをお勧めします。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座