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第236回 特許権の行使と公平交易法


ニュース 法律 作成日:2017年12月13日_記事番号:T00074467

産業時事の法律講座

第236回 特許権の行使と公平交易法

 利家毛刷(以下「利家」)は、2006年に実用新案特許「先端抜け落ち防止歯間ブラシ」を申請、取得した後、11年に同実用新案を郭宮宝氏に譲渡しました。その後、郭氏は12年に利家に対して同実用新案の専用実施権を付与し、同年6月21日にその登記を完了しました。

 利家は刷楽国際(以下「刷楽」)の販売している「歯間ブラシ」製品が同実用新案を侵害していることを発見したため、12年5月にカルフール(家楽福)、全聯福利中心(Pxマート)、小北百貨などに弁護士を通じて内容証明を送り、同歯間ブラシの販売の停止を求めました。これに対して刷楽は、利家が特許権を乱用し、公平交易法に違反しているとして、公平交易委員会(公平会)に告発しました。告発を受理した公平会は、利家が内容証明を送った時点において、専用実施権の登記が完了していないことを理由とし、利家に対して同行為を停止するよう命じました。

新規性を認めず

 12年初め、利家は、刷楽による同実用新案に対する侵害停止と200万台湾元の損害賠償を求めて、知的財産裁判所に対して民事訴訟を提起しました。同裁判所第一審は、13年4月に判決で原告敗訴の判断を示しました。裁判所は判決の中で、同実用新案「歯間ブラシ」は97年5月6日に公開された日本特開平9-117324号「歯間ブラシとその製造装置」案と同じものであり、新規性が認められないと判断しました。

 利家は控訴しましたが、同裁判所第二審は、同技術領域において通常の知識を有するものであれば、日本の前掲特許案中の技術を「直接利用」すれば、係争特許における先端部分とグリップ部分の結合が緩まない設計を「何の問題もなく知ることができる」と判断し、13年末に判決により控訴人の訴えを退けました。これに対して利家は上告を行いましたが、13年末に最高裁判所に訴えを退けられました。

 刷楽の歯間ブラシの製造メーカーである開季潔実業有限公司(以下「開季」)は、同実用新案に係る「歯間ブラシ」は、日本特開平9-117324号によって公開されているため無効であるとし、12年5月、知的財産局に対して特許無効の審判を提起しました。この訴えに対して知的財産局は、提出された証拠から同特許に新規性がないことは明らかであると判断し、14年9月15日付で特許の取り消しを審定しました。

 利家は本件について、知的財産裁判所に対して訴訟を提起しましたが、同裁判所は15年9月に原告の訴えを退ける判決を下しました。裁判所は判決で、証拠中における歯間ブラシの先端とグリップの結合部分の形状は、係争特許のものとは異なるため、同特許に新規性がないとはいえないが、同特許の形状は、証拠から容易に考えつくものであるため同特許には進歩性がないとしました。

 刷楽は第二審の訴訟期間中、利家の行為は「特許権の乱用」に当たり、同社はそれによって名誉を侵害されたとして、台北地方裁判所に対して訴訟を提起、利家による謝罪広告を求めました。

 しかし利家は、台北地方裁判所には管轄権がないと抗弁したため、同裁判所は13年11月に本案を「高雄地方裁判所へ移送」しました。これを不服とした刷楽が抗告したため、知的財産裁判所は14年1月に原決定を破棄し、台北地方裁判所に管轄権があると判断する決定を行いました。

 利家は再抗告しましたが、最高裁判所が同年4月にそれを退けたため、本案件は台北地方裁判所で引き続き審理されることになりました。

名誉毀損は棄却

 15年3月、台北地方裁判所判決により刷楽の訴えを退けました。また、同社控訴を受けた知的財産裁判所もまた、同年12月に以下の理由により、同社の控訴を退けました。

1)同特許は知的財産裁判所および知的財産局により新規性がないと判断されているが、それらはどちらも弁護士から内容証明が送られた後のことである

2)利家は、弁護士を通じて内容証明を送る以前の12年2月、知的財産局に対して「実用新案技術レポート」を申請しており、同局より同年3月付で「カテゴリー6」、すなわち「新規性などの要件を否定する先行文献を発見できない」という内容の技術レポートを受け取っている。そのため、「もし、被控訴人が、同特許について取り消されるべき原因が存在することを知っていたのであれば、直接弁護士から内容証明を送ればよく、係争特許に新規性、進歩性がないことを主務官庁に知られるリスクを犯してまで、知的財産局に対して実用新案技術報告を申請した上で内容証明を送る意味はないのではないか

3)公平会が利家に対して同行為を停止するよう命じた理由は、利家が当時まだ「専用実施権」の登記を済ませていなかったというものであるが、利家は登記こそ行ってはいなかったかもしれないが、専用実施権者であることには変わりがない。従って、同社が「専用実施権者としての地位に基づいて内容証明を送ったことについて、違法と判断することは難しい。

混乱招く根源

 刷楽はこれを上告しましたが、最高裁判所が17年8月に上告を棄却したことで、判決が確定しました。

 今回の案件から分かることは、台湾における実用新案特許は、業界の混乱を招いている根源であるということです。知的財産裁判所の実用新案特許技術報告の検索技術には、まだかなり改善の余地があります。みなさんも、もし同業他社から明らかに無効な特許を基にした嫌がらせを受けた場合には、経験豊かな専門家にお願いして、有効な反撃を図るべきでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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