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第232回 虚偽表示の刑事責任


ニュース 法律 作成日:2017年10月11日_記事番号:T00073313

産業時事の法律講座

第232回 虚偽表示の刑事責任

 商品または広告において、大げさな表示や事実とは異なる表示を行うことは、台湾だけに限らず日本でも少なくありません。このような行為は行政法の規範により、主務官庁の処罰を受ける可能性がありますし、事実との差が甚だしい場合には、裁判所から有罪判決を言い渡される可能性もあります。

 以下、6つの事例を挙げ、説明します。

東日本産を偽装

1)東日本大震災発生後、台湾では、福島など5県の製品の輸入を厳重に制限してきました。そんな中、あるメーカーは茨城県産の食品を輸入、さらには「産地:東京都」と表示した中国語のタグを作成し、同食品の発票、パッキングリスト、シッピングオーダー(S/O)上でも使用しました。また、製造場所の住所として「東京都台東区秋葉原5-7」(実際は茨城県筑西市野殿1555)の中国語表示を記したタグを食品上に貼り付け、台湾の市場において同食品を販売しました。

 2017年1月、台湾高等裁判所は、被告人の行為は刑法の行使業務上登載不実文書(業務上の不実な記載をしている文書を使用する)罪および詐欺罪に当たるとした上で、以下のような判断を示しました。

 行為者は取引相手を取引上の重要な点において錯誤に陥らせ、また告知の義務があったにもかかわらず、それを故意に行わなかったことからも、行為者は相手方の錯誤を利用し、消極的な不作為により欺罔(ぎもう)行為を行ったことは明らかであるため、詐欺利得罪を構成する。

2)台南市白河区は、ハスの花で有名です。同地で生産されるレンコンは、台湾庶民に広く愛され続けています。ある食品業者は、キャッサバ粉で製造した食品の包装に、「温かくしても冷たくしてもさっぱりおいしい。産地:台湾白河、レンコンの粉」「品質良好、高温殺菌、信用保証」などと大きく表示したほか、「レンコンの根」という図案、さらには「品名:レンコンの粉、内容物:レンコン、内容量:600グラム」など、事実とは異なる虚偽の表示を行い、同商品を販売し、消費者を錯誤に陥らせ、同商品を購入させました。

 13年12月、台湾高等裁判所台南分院は、被告人の行為は刑法の「虚偽表示をした商品を販売した」罪、および詐欺利得罪に当たるとした上で、以下のような判断を示しました。

 商品の製造地、製造者、成分、効能、および価格などは、消費者が同類の商品を購入するに当たり、最も関心を示す事項である。特に産地が限られる農産品などの商品に関しては、消費者は商品の品質を重視し、同生産地で生産された農産品を使った商品を購入しようとする。

「アップル製」携帯バッテリー

3)台湾では、中国で生産された、各種ブランドの携帯電話のバッテリーの模倣品をよく見掛けます。あるインターネット販売業者は、中国で生産された携帯電話のバッテリーに簡体字で「美国苹果公司(米国アップル社)」との表示を貼り付け、同社が製造、またはライセンス生産された携帯電話のバッテリーであるかのように見せ掛け、インターネット上で販売をしました。

 15年5月、台湾高等裁判所高雄分院は判決で、被告人の行為は刑法の「偽造準私文書の行使」罪に当たるとした上で、以下のような判断を示しました。

 被告は、ネット上に前述の携帯電話のバッテリーの写真を掲示することで、アップル社の企業名を使用し、かつ同バッテリーがアップル社の製造によるものである、または同社のライセンスを受けて製造されたものであると見せ掛けて(標榜して)、消費者を引き付けたのであるから、消費者に同バッテリーはアップル社の製造したものとの誤った判断をさせていることは明らかである。

4)直販企業である碧特事業グループは、無許可の化粧品工場において、化粧品のパッケージおよび容器上に、「総代理:碧特公司」「Manufactory: Tech Source Kariflore France By Pikar Lab」「Kariflore Chaville Paris France」などと虚偽の表示を施し、フランスKarifloreブランドの化粧品を製造、ライセンス製造、輸入したものであるかのように見せ掛けたばかりか、その広告においても、「フランスKarifloreの新技術」との表示を行い、会員に紹介し、誤認させ、購入させました。

 09年1月、裁判所は判決で、同グループの責任者および幹部の行為は刑法の常業詐欺罪、および化粧品衛生管理条例違反に当たるとし、責任者を懲役2年6月、幹部を懲役2年としました。09年5月、最高裁判所が被告の上告案を退けたため、全案が確定しました。

コメの産地偽装

5)被告人である李氏は、ベトナム産の米を台湾産であると偽り、自らの精米工場の容器上のホワイトボードに台湾産の米の品種名を記入、包装担当者にホワイトボード上に記載された品種に基づいた包装を使用させ米を包装させた後に、販売業者を通じて米を販売させました。販売業者らは、自らが仕入れた米の内容物は、その外袋に表示されている産地で製造された「50%タイ産+50%台湾産」のインディカ米であると誤認し、それらを購入していました。

 17年、知的財産裁判所は判決で、被告人らの行為は刑法の商品虚偽表記罪と詐欺利得罪に当たると判断しました。

6)あるローズティーの製造販売業者は、イランから輸入したバラのつぼみを細かく切り分け、花びらを小分けに包装し、原産国が「ドイツ」であるかのような虚偽の表示を施した上で、同製品を事情を知らないハーブティー製造業者に出荷、同製造業者旗下の飲料販売チェーン「英国藍(イングランド・ストーナウェー)」において、ローズティー商品の原料として使用させました。

 16年10月、知的財産裁判所は判決で、被告人らの行為は刑法の商品虚偽表記罪に当たると判断しました。

 これらの案件から分かることは、「商品上に、品質にかかわる重要事項に関する虚偽の表示をした場合は刑事罰を負うことになる」ということです。台湾の司法機関は、食品上の虚偽の表示はとても深刻な問題だという姿勢を見せています。

 一方で、食品以外の製品に関しては、虚偽の表示内容は消費者が重視している特性を示しているかによって、刑事罰を負うべきかどうかを判断しているようです。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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