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第234回 他者の特許の取り消し方


ニュース 法律 作成日:2017年11月8日_記事番号:T00073817

産業時事の法律講座

第234回 他者の特許の取り消し方

 台湾の新型専利(実用新案。特許は「専利」)は、出願時に実質審査を行いません。また台湾専利法(特許法)は、実用新案の行使に際して、実用新案権者に有効性の証明を求めていません。そのため、実用新案は産業上のトラブルの元となりがちで、実用新案の権利を行使する場合、かなり高い確率で知的財産裁判所に無効を言い渡されます。とはいえ、他人の実用新案を取り消すのは容易ではありません。

ふたの設計か、密封構造か

 台湾実用新案M456361号は、一種の「瓶のふたと瓶の間を密封する構造」で、元誉精業が2013年2月に出願し、同年7月に成立しました。同構造には、ガラスの瓶が含まれます。このガラスの瓶の口の外周には突起があり、その下端はへこんでいます。一方、瓶のふたには等間隔に並んだギザギザの歯が刻まれており、その歯の間が、前述の瓶の突起部と突起の下端部を包み込む構造になっています。この構造は、言ってみれば一種の「王冠のギザギザの部分から瓶の中に異物が入り込むことを、より有効な方法で防ぐ」ことが可能な構造を持ったビール瓶と王冠です。

 台湾煙酒(TTL)は15年6月に無効審判を提起し、▽同実用新案の瓶のふたの設計はTTLが完成したものである▽元誉はTTLのビール瓶のふたに用いるモールド用の模型の作成を請け負った際に、新型の瓶のふたの構造を知るに至った▽元誉はそれを自らのものとして、実用新案を出願した──などと主張。瓶のふたの図案、公開入札の公告、契約内容の一部などを裁判所に提示した上で、同実用新案には新規性、進歩性がなく、また実用新案権者も正当な権利者ではないことなどを理由として、同実用新案の取り消しを求めました。

 この無効審判の提起に対し、知的財産局は16年1月、▽TTLが提出した書類では、元誉が公開入札に参加し落札していることしか証明できない▽提出されている証拠は、「瓶のふた」に関するものだけであり、係争実用新案である「瓶のふたと瓶の間を密封する構造」については明らかにされていない▽そのため、同実用新案「瓶のふたと瓶の間を密封する構造」が公開入札時にすでに公開されていたのかが証明されないばかりではなく、同構造がTTLによって設計された後に元誉に対して提供されたものであることも証明されていない──と審定しました。

証拠の提出不足

 この審定に対して、TTLは訴願を提起しましたが受け入れられなかったため、あらためて行政訴訟を提起し、次のように主張しました。

 当時、TTLの「台湾ビール」の瓶のふたをハイネケンと同様の密着度にしようと考え、設計会社に設計を依頼したところ、「瓶のふたの内径を元々の26.55ミリメートルから26.45ミリにすることで、瓶のふたの端から瓶の口にかけての隙間を狭くしたほか、瓶のふたの寸法を28.7ミリにすることで、瓶とふたの密着度を高める」設計となり、結果として「ギザギザ部分の密着度を高めたことにより、空気が入り込む懸念がなくなる」という効果を得ることができた──。

 これに対し、知的財産裁判所が17年1月に採択した結論は「たとえ原告(TTL)が訴訟参加人(元誉)が創作を行うより以前に、改良に関する多くの構想を提供していたとしても、実際に同係争実用新案を完成させたのが参加人ではないことを証明するには至っていない」というもので、原告敗訴の判決を下しました。

 TTLは最高行政裁判所に上告し、次のように主張しました。

 TTLの提出した証拠は、「元誉が請け負ったのは、ビール瓶のふたのモールドの改良である。また、同ビール瓶のふたの改良設計はハイネケンのビール瓶のふたを模倣した結果である。そのため、同実用新案の設計がすでに公開されている設計であることは、ハイネケンのビール瓶のふたを見れば明らかである」と証明できる──。

 しかし、最高行政裁判所は17年10月、TTLは第一審において、このような主張を証明するための十分な証拠を提出していなかったとして、知的財産裁判所の判断に誤りは見られないとし、原告の訴えを退けました。

瑕疵の見落とし

 本案は、言い換えれば「TTLは技術能力が低いため、他社のビールメーカーの設計を模倣することしかできず、しかも下請けメーカーに実用新案を出願されてしまった。また、無効審判を提起したはいいが、国際社会の笑いものになるのが怖かったためか、あいまいな証拠しか提出できず、結局敗訴してしまった」というものです。

 しかし同実用新案の説明書には、「小さな異物が瓶の中に入り込む主な原因は、従来の方式によって作られたギザギザ部分は、縦方向に比較的長く伸びていることにある」と記されていただけで、「ふたを瓶に密着させるため、比較的低い圧力で、瓶の上部まで深くかぶさるよう、短めのギザギザ部分を有する…、瓶のふたの裏側全体は、瓶の口周辺の突起部に、より密着した構造となる」という技術的特徴は記載されていませんでした。このような瑕疵(かし)を指摘すれば、同実用新案を取り消すことができたと思われます。

 もし経験のある弁護士であれば、このような問題を見つけ、「ハイネケンのビール瓶のふたの設計を模倣した」ということに関係する主張をするのでなく、実用新案説明書の記載が違法である点を突くことをアドバイスしたでしょう。そうすれば、結果は全く違ったことは間違いありません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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