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第254回 未登録商標の保護


ニュース 法律 作成日:2018年9月26日_記事番号:T00079466

産業時事の法律講座

第254回 未登録商標の保護

 陳謙中氏は、2003年11月に翻訳サービスを手掛ける謙慧股份有限公司(以下「謙慧公司」)を設立し、対外的には「五姉妹翻訳社」の名称で顧客にサービスを提供していました。翻訳料は謙慧公司の名義で受け取っていました。

 一方、05年より謙慧公司の従業員として営業を担当していた戴正平氏は、09年に会社の同意を得ることなく「五姊妹翻訳社」という商号を登記し、11年に離職した後、同じ住所の他の階に「五姊妹翻訳社」を設立、翻訳サービスの提供を始めました。さらに戴氏は11年、陳氏が使用するドメイン名「5sisters.com.tw」に類似するドメインを多数取得した上で、サイトを開設し、翻訳サービスの提供を行いました。

2年遅れで商標権取得

 戴氏の「五姊妹翻訳社」が提供していた翻訳の質は悪く、消費者のクレームが蘋果日報や中時電子報などでも大きく報じられました。そこで陳氏は11年6月、「五姊妹」を通訳、翻訳サービスの商標として登録し、商標権を取得しました。この登録を知った戴氏は、経済部智慧財産局(知的財産局)に対して異議を申し立てましたが、退けられました。最高行政法院(最高行政裁判所)も15年2月、戴氏の上告を退けました。

使用禁止を請求

 陳氏は、これに先立つ14年1月、戴氏の行為が陳氏の翻訳会社の名誉を損なうとして、戴氏による「五姊妹翻訳社」の名称および商標「五姊妹」を用いた営業活動の禁止、ならびに損害賠償を求めて民事訴訟を提起しました。

 本件請求の最大の論点は、戴氏が09年の段階で「五姊妹翻訳社」の商号を登記していたこと、陳氏は11年にやっと「五姊妹」の商標を登記したことでした。

先使用権で勝訴

 智慧財産法院(知的財産裁判所)は15年6月、陳氏勝訴の判決を下しました。戴氏に対しては、商号「五姊妹翻訳社」、商標「五姊妹」、これに近似するドメイン名の使用の禁止と、50万台湾元(約180万円)の損害賠償を命じました。

 戴氏は、これを不服として控訴しましたが、知的財産裁判所での第二審は16年5月、戴氏の控訴を棄却しました。

知的財産裁判所は判決の中で、次の判断を示しました。

1.戴氏は、陳氏とは経営パートナーの関係(合夥)にあると主張しているが、「五姊妹翻訳社」の名称は陳氏が先に使用を始めたものであり、また戴氏は謙慧公司の経営パートナーではなく、元従業員である。陳氏が同商標が登記される以前に使用していた「五姊妹翻訳社」の形式および方式は、商標の「先使用」に当たる。

2.戴氏は、同商標の使用は「善意による使用」と主張するが、陳氏は早くも04年の段階で「五姊妹翻訳社」という名称を使用していた。戴氏が謙慧公司において「五姊妹翻訳社」の名称を使用した行為は、戴氏自身がそれを使用していたわけではなく、謙慧公司の業務上での使用であるので、戴氏は同商標が陳氏によって使用されていることを知っていたと認められる。

3.戴氏は、陳氏の商標権を故意に侵害したのであるから、陳氏は商標法および公平交易法(公正取引法)の規定により、戴氏に対して商号「五姊妹翻訳社」および商標「五姊妹」の使用の禁止を求めることができる。このため、戴氏は商標「五姊妹」に相同または近似する看板、名刺、ホームページ、広告、その他の販売にかかる全ての物品を排除または破棄しなければならない。

4.戴氏は離職後、同じビル内に同名称の翻訳会社を設立したが、その目的は「消費者に混同させ、陳氏より顧客を奪うことで、陳氏の取引機会を減少させる」ことにあった。このような行為は、公正取引法第25条に規定のある「明らかに公平さを欠く行為」に該当する「他者の努力を利用する」行為に当たる。したがって、陳氏が商標を登記したのは戴氏が「五姊妹翻訳社」の商号を登記した後だったが、陳氏は戴氏に対し商業名称変更登記を請求する権利がある。

5.本判決そのものが既に裁判所のホームページ上で公開されており、誰でも検索閲覧することが可能であるため、戴氏に対して別途新聞に説明文広告を載せることを命じる必要はない。

 戴氏は、この判決を不服として最高法院(最高裁判所)に上告しましたが、最高裁判所は18年7月、戴氏の上告を退けました。最高裁判所は判決の中で、次の認定を行い、知的財産裁判所の判断を是認しました。

 戴氏は「相同かつ競合関係にある翻訳業務に従事することで、両社が同一の出所または一定の関係にあるように他者に混同、誤認させ、被上告人が係争商標に対して払った努力の成果を利用することで、その取引の機会を阻害しただけでなく、市場における競争機能を妨害し、取引の秩序に影響を与えた。このことは明らかに公平さを欠く行為で、また消費者の権益を損ずるものである。」

 本件判決は公正取引法の規定から、登記されていない商標であっても、相当な使用がなされた場合においては商標権が発生することを導き出した判決であり、参考とする価値がある。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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