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第251回 海外ショッピングサイトの法的責任


ニュース 法律 作成日:2018年8月8日_記事番号:T00078588

産業時事の法律講座

第251回 海外ショッピングサイトの法的責任

 台湾で摘発される模倣品や海賊版商品のほとんどは、中国から持ち込まれたものです。これらの商品は台湾市場で流通している他、中国のショッピングサイトからも購入できるため、台湾で正規版を販売しているメーカーに大きな打撃を与えています。しかし、何ら有効な解決手段がないのが実情です。

模倣LEDライトの事例

 2016年6月、蔡炳煌氏は彰化地方検察署に対し、次の内容の告訴状を提出しました。

 蔡氏が設計した「LED(発光ダイオード)モバイルバッテリー作業ライト(以下「作業ライト」)」は、台湾で16年に発明特許を取得した新製品である。蔡氏が作業ライトを販売するに当たり、設計した「商品設計図」および「包装用紙」は、蔡氏が著作権を有する図形著作、美術著作、文字著作である。

 蔡氏は16年1月、中国のショッピングサイト「阿里巴巴(アリババ)」および「淘宝(タオバオ)」において、何者かが蔡氏の作業ライトの模倣品を販売していることを発見した。同模倣品の形状は蔡氏の作業ライトと同じであり、包装用紙も蔡氏のものをコピーしたものであった。蔡氏は、販売者が著作権を侵害しているとして、両サイトに販売停止を求めたが、両サイト共、何ら措置を講じず販売を続けた。

 このため、両サイトの台湾支社責任者を刑事告訴する。

台北支社責任者「関与なし」

 刑事告訴を受けた彰化地方検察署は、案件を台北地方検察署に移送しました。

 検察官は、権利侵害が疑われる商品の広告は、中国のショッピングサイトに掲載されているもので、被告らは両サイトの台湾における責任者にすぎず、権利侵害に関与していないと判断。調査法廷を開くことなく、16年9月に不起訴処分を下しました。

 蔡氏は不起訴処分を不服として異議を申し立てましたが、それも同年11月に却下されました。

自訴不受理

 蔡氏は17年1月、その後も両サイトに同商品の広告が見られることを理由に、彰化地方裁判所において、アリババとタオバオ、および両社の台湾支社責任者の著作権侵害を理由とした「自訴(自らの名義による刑事起訴)」を提起しました。しかし、彰化地方裁判所は17年5月、同案件について既に検察が不起訴処分を下していることを理由に「自訴不受理」の判決を下しました。

 蔡氏は、この判決も不服として知的財産裁判所に控訴したところ、同裁判所は17年7月、責任者の部分についての控訴は退けたものの、会社の部分について検察は不起訴処分を下していないとして、彰化地方裁判所に差し戻しました。

法人の嫌疑も認めず

 差し戻しを受けた彰化地方裁判所は17年12月、次の理由から裁定により自訴を棄却しました。

 蔡氏が両サイトの責任者に対して行った刑事告訴については、既に検察官により「十分な犯罪嫌疑が認められない」ことを理由に不起訴処分が下されている。著作権法において法人を処罰する規定が設けられているのは、それが法人の責任者による犯罪であることによる。したがって、法人に対して提起された自訴についても、同様に「十分な犯罪嫌疑が認められない」。

 また、蔡氏は自訴を提起したが、何ら新証拠を提出していない。

 よって、本案については「十分な犯罪嫌疑が認められない」ことを理由として、自訴を棄却する裁定を下す。

サイト側の調査義務を否定

 蔡氏は、この判断に対して抗告を行いましたが、知的財産裁判所は18年5月に、次の理由から棄却する裁定を下しました。

1.裁判所は公訴または自訴案件に対して、「十分な犯罪嫌疑が認められない」と判断した場合には、その訴えを退ける裁定をしなければならないが、この「十分な犯罪嫌疑が認められない」とは、「有罪判決が下される高度な可能性がない」ことを指している。

 ここで言う「嫌疑」とは、捜査を始める際と、有罪判決を下す際で程度が異なる。例えば、検察官は「嫌疑」(単なる嫌疑)が存在する程度で捜査を開始できるが、裁判所は「合理的な疑いを差し挟む余地がない」程度の確信がなければ有罪判決を下すことができない。

2.ショッピングサイトは、ショッピングサービスを提供するための単なるプラットフォームあり、「調査を行う公権力」は有しておらず、申告を受けても本当に権利を侵害しているのか、申告者が本当に権利を有しているのかなどについて判断を行うことはできない。したがって、ショッピングサイトが申告を受けた後、即座にそれら商品の掲載を取り下げなかったとしても、著作権法違反となることはない。

3.蔡氏は不起訴処分が確定した後、新しい購入記録を証拠として提出したが、「被告にどのような著作権法違反の犯罪嫌疑があるのか」についての説明はしておらず、同証拠によって本案が「十分な犯罪嫌疑が認められない」とされた事実が変更されることはない。

 この知的財産裁判所の裁定は再抗告ができないものだったため、蔡氏が提起した再抗告は18年6月に最高裁判所によって却下されました。

 今回の案件からは、海外のショッピングサイトにおける知的財産権の保護に大きな問題があることが明らかとなりました。本案件において、ショッピングサイトは権利侵害をしていないのかもしれませんが、ショッピングサイト側に公権力があるかどうかと、法的義務があるかどうかとは全くの無関係です。「ショッピングサイトには模倣品も海賊版も管理する義務はない」と知的財産裁判所が判断するのであれば、知的財産裁判所はより説得力のある理由を提示しなければならないでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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