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第252回 製造方法特許の有用性


ニュース 法律 作成日:2018年8月22日_記事番号:T00078850

産業時事の法律講座

第252回 製造方法特許の有用性

 特許を申請することができる発明には、モノの発明の他、方法の発明があります。方法の発明とは、ある特定の物品に変化をもたらす一連のプロセスを指します。物品の製造方法は、方法発明特許を申請することができる典型的な例です。しかし、物品の製造方法について特許を取得した場合、他者からの権利侵害をどのように証明するのかという大きな問題があります。

元社員の特許侵害疑惑

 全球滾珠科技(以下「全球」という)は、2006年に発明特許I263003号「ボールナットの構造およびその製造方法」を取得しました。この特許の請求では、請求項1に新しく発明されたボールナットの構造が、請求項2~9、10~20にそれぞれ、ボールナットの2つの製造方法が記されていました。

 15年8月、全球は璟騰滾珠科技(以下「璟騰」という)が販売するボールねじがこの特許を侵害していることを発見し、璟騰に対して権利侵害を止めるよう通知しました。璟騰の責任者の李重慶氏は、かつて全球の従業員でした。璟騰は16年2月になっても、この製品を販売していたため、全球は璟騰の権利侵害の停止と1億台湾元(約3億6,000万円)の損害賠償を求め、智慧財産法院(知的財産裁判所)に訴えを起こしました。

 これに先立つ16年1月、璟騰は全球からの警告を受けたため、経済部智慧財産局(知的財産局)に対し特許無効審判を開くよう求め、証拠を提出しました。これに対し知的財産局の特許無効審判は16年5月、特許無効の請求を退ける審決を下しました。璟騰はなおも16年7月に新証拠を提出し、再度、特許無効を求めましたが、知的財産局は17年3月に請求を退ける審決を下しました。

 一方、全球が起こした民事訴訟には17年5月に判決が下されました。判決の中で裁判所は、璟騰が2度目の特許無効審判において提出した証拠を基に、同特許の請求項1を取り消すものの、方法発明特許に関する請求項は全て有効であるとの判断を示しました。しかし、全球側は璟騰の製品を提出したのみで、同製品がどのように製造されたのかについては証明を行っておらず、璟騰が係争特許の製造方法を用いて同製品を製造したことは証明できていないとしました。また、知的財産裁判所の判断は知的財産局の審決の結果に拘束されないことが明確に示されました。

完成品で比較できず

 全球は、この判決を不服として控訴しました。控訴審において、全球はエンジニアと大学教授による分析レポートを提出し、璟騰の製品が係争特許を使用して製造されていることを証明しようとしました。

 17年11月、知的財産裁判所は全球の控訴を棄却しました。判決において、裁判所は次の判断を示しました。

1.全球の採用した証明方法は、璟騰の加工済みの完成製品の位置決め穴が、全球がボールナット加工に使用している治具と当てはまることを示した上で、全球での生産工程に基づいて、どのように装置を用いて補正、検査を行うのかや、ナット素材の加工後に使用する研磨機と検査工程を示してみせたものであった。

2.全球による分析は、加工機器の中で治具がどのように使用されるのかについては示していない。同様に、方法発明特許における「未加工のナットを治具にはめ込んだ上で、位置合わせ基準ピンを治具にはめ込み、基準ピンが治具を通り抜けてナット素材上の位置決め穴に挿入される」という過程や、その後過程についても示さなかった。

3.全球は一連の写真の提出により、加工済みの璟騰の完成製品を利用して製造過程を示そうとしたが、これは単なる「模擬操作」にすぎず、係争特許の請求項2に記載された各製造過程や手順を実質的に示したものではない。

4.エンジニアと大学教授による説明は、「関係者による作業経験の陳述」としか言えず、単なる補助証拠でしかない。璟騰の製品が全球の方法発明特許を侵害していることを証明するためには、同製品の「実際の製造方法の関連過程、手順、機具の補正などの工程の映像」をもって行わなければ、比較による特許侵害の確認を行うことはできない。

 本案件は18年7月、最高法院(最高裁判所)が全球の上告を棄却したことで確定しました。

証明が困難

 製造方法の発明について特許侵害を証明するためには、通常は製造工場で製造機械を差し押さえる必要があります。しかし、台湾の裁判所はこのような「証拠保全」命令については非常に保守的な判断をする傾向があります。また、機械が特定製品を専門的に製造する機械でない場合は、たとえ差し押さえることができたとしても、実際の製造工程を証明することは難しいでしょう。もちろん、加工済みの完成製品で製造過程を証明しようとする方法では、裁判所を納得させることはできません。

 以上のことから、発明が「モノ」に関する場合、その製造方法について方法発明特許を取得することにもちろん価値はありますが、実際に特許を申請するに当たっては、やはり「モノ」そのものに重点を置くべきでしょう。方法発明特許を取得したとしても、役立つとは限らないからです。

 また、今回例に挙げた方法発明特許では、請求項に、第1機械において第1加工を、第2機械において第2加工を行うというように製造過程が示されていましたが、このような記述方法では特許侵害の証明がより難しくなります。特許申請の際には、特許関連の訴訟経験が豊富な専門家に依頼しなければ、権利保護の目的を達成するのは難しいでしょう。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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