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第247回 没収は空箱だけ、商標侵害案件の判断は妥当か


ニュース 法律 作成日:2018年6月13日_記事番号:T00077580

産業時事の法律講座

第247回 没収は空箱だけ、商標侵害案件の判断は妥当か

 日本企業、武蔵オイルシール工業株式会社(Musashi Oil Seal MFG. Co., Ltd.:以下「武蔵」)は2014年、彰化市の明昌油封科技有限公司、および銘錩油封有限公司(以下それぞれ明昌、銘錩)が「MUSASHI」ブランドのゴム製オイルシール、シールキャップ、Oリング製品の模倣品を販売していることを発見し、警察に届け出ました。警察は14年5月8日に明昌を家宅捜索し、パッケージされた状態のオイルシールと空箱をそれぞれ相当数押収しました。

 これに対して、銘錩の責任者である陳益昌氏は以下のような主張をしました。▽銘錩は03年7月に登録商標「MUSASHI」を、ゴム・プラスチック製オイルシールを指定商品として登録している▽13年1月には経済部国際貿易局に対して、企業の英語名を「Ming Chang Oil Seal Co., Ltd.」から「Musashi Oil Seal MFG. Co., Ltd.」へ変更する旨の申請を行っている▽銘錩が使用しているのは政府の許可を得た商標であり、違法ではない──。

 しかしその後の検察の捜査により、陳益昌氏らは▽同社オイルシール製品において商標「MUSASHI」を使用していただけでなく、武蔵の登録商標である「C図形」商標も使用していたこと▽同製品のパッケージ上に一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)が武蔵に対して振り分けた企業コードバーコードもプリントしていたこと──、などが発覚したため、陳益昌氏は登録商標の侵害と準私文書偽造により起訴されました。

 彰化地方裁判所は16年12月に被告を懲役6月(54万台湾元の罰金支払いで懲役の免除可能)の有罪、また既に押収済みのオイルシールおよび空箱などを没収する判決を下しました。この判決に対して、検察はより重い判決を、被告はその逆を求めて共に控訴しました。

オイルシールは没収せず

 知的財産裁判所は17年5月の判決において、地方裁判所の判決を支持した上で、第一審判決における没収にかかる部分を取り消し、「オイルシールのパッケージおよび空箱」のみを没収するとの判決を下し、オイルシールそのものは没収しない、としました。

 知的財産裁判所は判決の中で以下のような判断を行いました。被告は「まず、武蔵が30年以上にわたって使用している企業名称『MUSASHI』をわが国において登録商標として登録し、次に武蔵の英語企業名を銘錩の英語企業名として登録した。その上で、その外観にC図形商標を含む武蔵のものと外観が極度に近似したパッケージを用いて自らのオイルシールを包装しただけでなく、武蔵のバーコードをパッケージに貼り付けるなど、消費者を混交させるための意図をもって、武蔵の商業上の信用を利用することで、公平とは思われない販売競争を行おうとした」ことで、相当程度の危害と侵害を発生させた。しかし、商標法における「没収」の規定の目的は、権利侵害物件が外部に流通することで継続して権利者の権利を侵害することを防止することにある。本案におけるオイルシール自体にはC図形の商標も、偽装されたバーコードも記されておらず、「C図形商標およびバーコードは共にパッケージ上にプリントされている。また、パッケージとオイルシールは、共に各自分離、独立して存在していることから、両者が分離した後にはオイルシール上にはC図形商標もバーコードも記されていないのであるから、「たとえ市場に流通しても商標権を侵害する恐れはない」ため、パッケージ内のオイルシールは、必ずしも没収しなければならないものではない」。

奇妙な推理の影響は

 検察は当然上告しましたが、最高裁判所は次のような理由から、18年5月に上告を退ける判決を下しました。

1)刑法には確かに「犯罪に供された物、犯罪の準備に供された物、犯罪によって発生した物…は、没収することができる」と規定している。つまり裁判所は「没収しない」こともできる。偽造された商標の記されたパッケージ内のオイルシールは確かに「犯罪に供された物、犯罪の準備に供された物」であるが、しかし規定上「必ずそれを没収しなければならない義務」は規定されていないのであるから、原審が刑法の規定による没収を行わなかったことは違法とはならない。

2)「物の性質上、それを分離することが難しい、または一般社会通念上それを一体の物として取り扱い、独立して存在することが難しいという場合を除き、没収の対象物が分離可能であり、また分離後もその実質的効用または法律的効用に影響がない場合、裁判所はその状況に応じて没収を行うか否かを判断し宣告することができる」。

3)本件第二審は、本件製品のパッケージとオイルシールとが各自独立して存在可能であることについて詳細な説明を行っており、オイルシールを没収しないことには何らの違法性もない。

 本件判決に用いられた推理はとても奇妙なものです。このような考え方が、将来の刑事案件における没収の範囲とその考え方にどのような影響を及ぼすのかについては注意が必要です。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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