ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第206回 台湾で実用新案を申請する利点


ニュース 法律 作成日:2016年7月27日_記事番号:T00065482

産業時事の法律講座

第206回 台湾で実用新案を申請する利点

 申請に際して実体審査が行われない実用新案は、権利を取得した段階では特許権の有効性は確定しておらず、権利の行使に際して裁判所による実質審査が必要とされることが多いため、日本の産業界では「実用新案特許=無用の特許」という見方をされているようです。実際、日本における実用新案の申請数は、毎年7,000~8,000件程度、2015年には6,860件と、発明特許の申請数が30数万件であるのとは比べ物にならない少なさとなっています。

 一方、台湾では実用新案の効力は、発明特許のそれと変わりがないものであることから、台湾における実用新案の申請数は、毎年、発明特許のほぼ半分程度に上っています。

 台湾の産業界が実用新案に関心を寄せている事実は、台湾における申請件数だけではなく、日本における実用新案の申請件数にも表れています。15年の日本での実用新案申請件数は、台湾からの申請が国・地域別ランキング1位で1,026件でしたし、また14年においても、総申請件数7,095件中、1,175件が台湾からの申請でした。

特許侵害訴訟の勝訴率はほぼ同じ

 台湾において実用新案が発明特許と変わらない地位を得ていることは、台湾の知的財産裁判所の判決からも容易に読み取ることができます。

1.15年、知的財産裁判所第一審は、特許侵害に関して81件の判決を下した。そのうち、発明特許に係る判決は36件、実用新案に係る判決は38件(うち1件は発明特許と実用新案に同時に係る判決)、残りの8件は意匠に係るものであった。

2.36件の発明特許に係る判決のうち、特許権者が勝訴した判決は4件(11.1%)、敗訴した判決は32件(88.9%)だった。特許権者が敗訴した判決のうち、裁判所により特許が無効と判断された判決は17件(53.1%)、侵害は認められないと判断された判決は14件(43.8%)で、残りはその他の原因によるものだった。また、一部の判決では、一つの判決において、特許の無効と、被告による侵害は認められないとの判断を下している。特許権者の勝訴判決における賠償金の総額は1,620万188台湾元であった。

3.38件の実用新案に係る判決のうち、実用新案権者が勝訴した判決は6件(15.8%)、敗訴した判決は32件であった。実用新案権者が敗訴した判決のうち、裁判所が実用新案を無効と判断した判決は24件(75%)、侵害は認められないと判断した判決は12件(37.5%)であった。実用新案権者の勝訴判決における賠償金の総額は220万390元であった。

4.8件の意匠権に係る判決のうち、意匠権者が勝訴した判決は2件(25%)、敗訴した判決は6件(75%)であった。意匠権者が敗訴した判決のうち、裁判所が意匠権を無効と判断した判決は3件、侵害は認められないと判断した判決は3件であった。意匠権者の勝訴判決における賠償金の総額は65万7,231元であった。

 これらの数値は、「知的財産裁判所第一審判決の15年度の統計」という限られたものですが、それでも以下のような特徴を見出すことができます。

1.台湾の特許侵害訴訟において、発明特許権の行使に係る案件数と、実用新案の行使に係る案件数はほぼ同数であり、また15年については、実用新案に係る案件の勝訴率は発明特許のそれを上回っていた。

2.発明特許は実体審査を経ているが、特許の有効性の維持率(無効比率47.2%)は実体審査を経ていない実用新案のそれ(無效比率63.2%)を大きく上回っているわけではない。

 台湾における実用新案の効力は発明特許のそれに劣るものではないことから、日本企業の皆さんも、台湾で特許を申請する際には、実用新案を申請することを十分に考慮すべきでしょう。

 日本で発明特許を申請しているものについて台湾で申請を行う場合には、実用新案として申請を行うことで、日本語の特許説明書とその中国語翻訳文による申請によって、実体審査を行うことなく、形式審査のみで実用新案証書を手に入れることができます。これにより、時間と費用を大幅に節約できるだけでなく、得られる効力に関しては、前述のように発明特許と同等のものとなっているわけです。

 実用新案の保護期間は10年で、発明特許と比べ短くなっています。しかし、ほとんどの産業技術に関していえば、十分な保護期間でしょう。前述のとおり、知的財産裁判所が実用新案を無効と判断する比率は特許より少し高いものとなってはいますが、台湾の実用新案を取得した後、その請求範囲を日本の特許庁の審査を経たものと同様に修正することで、知的財産裁判所から無効とされる可能性は大幅に減ることは間違いありません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座