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第201回 刑務所からの遠隔操作による海賊版の販売


ニュース 法律 作成日:2016年5月11日_記事番号:T00064079

産業時事の法律講座

第201回 刑務所からの遠隔操作による海賊版の販売

 基隆市「全家誼玩具店」の責任者である朱翠玉は、2000年3月に海賊版ゲームのCDロム(以下「CDロム」)」販売の容疑で逮捕され、03年4月に最高裁判所で1年2月の有期懲役の有罪判決が確定、その後入所し、04年7月に出所しました。

 10年6月、「保護智慧財産権警察」は、同被告が同店舗でCDロムを販売していることを発見しました。同被告は、11年11月に知的財産裁判所で1年2月の有期懲役の有罪判決が確定、12年2月に入所し、13年1月に仮釈放されました。

 12年9月、保護智慧財産権警察は同店舗で、今度は任天堂DS用のマジコンが販売されていることを発見、また捜査当日には同店舗の秘密の倉庫からCDロム6,000枚強も発見されました。当時、朱翠玉は服役中であったため、捜査にはその親戚である朱品蓁が立ち会い、「朱翠玉は入所後、店舗を朱品蓁に譲った」と供述しました。しかし検察官は調査後、朱品蓁は朱翠玉に雇用され店舗を管理していたと判断、服役中の朱翠玉および朱品蓁の2人に対して公訴を提起しました。

 基隆地方法院は14年12月、朱品蓁に対して2年6月の有期懲役の有罪判決を下しました。一方、朱翠玉に関しては、「朱翠玉は10年6月の捜査時に店舗内全てのCDロムを押収され、しかも12年2月から入所していることから、警察が12年9月に発見したCDロムは、すべて朱品蓁が仕入れをし、販売の準備をしていたものである」としました。またその理由としては、「今回発見されたCDロムには、朱翠玉が入所後に発行されたものが含まれている」「朱翠玉が入所後も同店舗の経営に関わっていたとする証拠が存在しない」などを挙げています。

服役中でも共謀できるか

 同案は検察の控訴を経てた後に、知的財産裁判所が15年7月に原判決を破棄、朱翠玉、朱品蓁の2人を「共同重製盜版」とし、各々に1年6月の有期刑を下しました。

 知的財産裁判所は判決の中で次のような認定を行いました。

1)朱品蓁が12年2月に経営を担ってから捜査を受けるまでわずか7カ月しかないにもかかわらず、店内には6,000枚強のCDロムが存在した。それは7カ月という短い期間にため置くことができる「運営量」ではない(朱品蓁の証言:「CDロム業者『阿信』は毎週1度CDロムを補充しに来たが、毎回の補充数は最高でも100枚から200枚だった」)。

2)朱品蓁は供述の中で、自らに同店舗を独立経営する能力はないことを認めているほか、朱翠玉の服役中に面会を申し込み、店舗の経営状況を報告していたとしている。このことから、朱翠玉は服役中においても、朱品蓁を通じて店舗内の秘密の倉庫内の大量のCDロムを販売し続けることができた。

3)警察の捜査時に秘密の倉庫から発見されたCDロムは、全て細かく分類され、鉄の棚に保存されていた。このことからも、秘密の倉庫内のCDロムは、朱翠玉が入所する以前から相当数が蓄積され、系統的に整理されていただけでなく、その入所後も継続して補充されていたことにより、警察の捜査時に発見された規模と系統性が保たれていた。

4)発見されたCDロムは「阿信」によって、同店舗3階でCDロムとして焼かれ(作成され)ていたが、両被告とも同行為に参与していたことから、犯行は共同で実施されていたと認めるに至った。

 両被告はこの判決を不服として最高裁判所に上告しました。朱品蓁は刑が重過ぎること、朱翠玉は服役中であるため店舗内のCDロム作成に関われるはずがないことをそれぞれ上告の理由としていましたが、最高裁判所は16年4月に2人の上告を退けました。

 最高裁判所は判決の中で次のような認定を行いました。

 「朱翠玉は服役中であるが、朱品蓁を通じてCDロムの販売を行っていた。朱翠玉は本件犯罪行為の実行に自ら参与したわけではないが、本件犯罪行為の実行に関して朱品蓁と共謀し、朱品蓁をしてそのその犯罪行為を実行させたのであるから、共同正犯が成立する」。

 本案件においては、被告らが任天堂DS用のマジコン販売行為を行ったことについても争われ、第二審は、被告らは「技術的保護手段を回避する機材を公衆が使用することに対して提供してはならない」という規定に違反していると判断しました。その後、被告らはこの判決に対して上告を行っているため、本案件は台湾において「技術的保護手段を回避する機材」に関する争いが最高裁判所に持ち込まれた初めての案件となったわけですが、残念なことに、最高裁判所はこの部分に対して何らの意見も表明していません。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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