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第186回 裁判所による虚偽特許の認定


ニュース 法律 作成日:2015年8月26日_記事番号:T00058928

産業時事の法律講座

第186回 裁判所による虚偽特許の認定

 LEDはこれまでの照明に取って代わる技術として注目されています。特に工業・商業・家庭照明・ディスプレイ・制御応用系などの分野におけるLED関連の材料・製造・応用・制御技術などに関する製品の市場では、各種特許侵害訴訟が毎日のように提起されており、まさに「戦国時代」とも言ってもよい状況です。

 原告である聚積科技股份有限公司(マクロブロック)は、2012年に明陽半導体股份有限公司(MY-SEMI)を相手取り特許侵害訴訟を提起しました。原告は、被告が台湾発明特許I316694号「脈波寬度可調変之発光二極体駆動方法(パルス輻変調による発光二極体の駆動方法)」を侵害していると主張、侵害の停止と、500万台湾元の損害賠償を求めました。

 本件特許は、06年に申請されたもので、スイッチのオン・オフの比率を変化させる技術である「パルス輻変調(Pulse Width Modulation:以下「PWM」)制御技術」を利用した調光技術の改良に関する特許です。本件におけるパルス輻変調とは、LEDの点灯・消灯の時間を制御することで、LEDの見かけ上の明るさを制御し、同一の制御周期(人の目が「チラつき」を感じることのできる時間より短い必要あり)内での点灯時間が長いほど、人の目には明るい光として映るという作用を利用した調光技術です。

 本件特許の明細書には、PWM技術をLEDディスプレイに応用する場合、「低輝度」、すなわち「制御周期内での消灯時間が長い」際、もし「映像表示比率の低いデジタルカメラで撮影したLED映像」を表示すると、チラつきを感じることがあるとの既存の問題点記載がありました。

特許記載の矛盾を問題視

 そこで、本件特許はこの点を改良するため、LEDの「更新率」(LEDが毎秒点滅する回数)を上げることで、元々の制御周期をより多くの制御周期に分割し、かつ元の制御周期内での発光時間の総和(特許中は「作業周期」と表示)を、分割された各々の制御周期に分配することで、輝度を落とさずにチラつきを減少させるという技術を採択、特許明細書には制御周期を分割する2種類の公式が記載されていました。

 知的財産裁判所は、13年2月に下した第一審判決の中で、被告の製品は更新率を高める方式を採用しているが、分割の方式は原告のものと異なり、また、分割の結果、特許に示されている「輝度制御信号の作業周期は変わらない」という効果を得ることもできないとし、原告の訴えを退けました。

 その後、原告による控訴を受けた知的財産裁判所は、同年11月に第二審判決を下しました。裁判所は判決の中で、本件特許の記載内容には矛盾があり、そもそも実施は不可能であるため、本件特許は無効であると判断しました。裁判所の判断の詳細は以下のようなものです。

1)本件特許の主要な請求項には、作業周期の分割方法は記載されておらず、また特許明細書には、本件特許申請時には作業周期の分割に関する公開技術は存在しないとの記載があることから、特許範囲は同特許明細書に記載されている2種類の分割公式に限られる。

2)実際の数値を同公式1に入力してみると、その分割結果は特許に記載のある分割結果とは異なった。また、公式2に関しても同様の検験(確認)を行ったが、分割結果は特許に記載されているものとは異なった。そのため、本件特許に記載のある分割の演算方法は、本件特許の実施例に対して使用することはできないと判断する。

3)このような状況はすなわち、同業技術者が特許明細書の内容および申請時における通常知識に基づいても、係争特許の演算技術がどのようなものであるのかを理解することができないということであるため、同特許は無効である。

 判決を不服とした原告は、最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は今年6月に知的財産裁判所の判断を維持する判決を下し、原告の敗訴が確定しました。

 本件特許は、LEDの作業周期が長過ぎる状態で、低輝度にするとチラつきが発生するという現象を改良するためのものでした。本件特許が前提とした命題からは、直感的に「低輝度の時には作業周期を短くして更新率を高めればいいのではないか」という解決方法が思い浮かびます。本件特許が提示した公式は、各種分割の方式を元に、それらの問題を考慮した上でまとめたとみられるとても複雑な理論でした。しかし結果として、裁判所が特許明細書の内容に基づいて確認した結果、特許明細書内の記載と公式の演算結果が異なってしまったわけですが、本件から、以下のような問題点を整理することができます。

セカンドオピニオンの提起を

1)特許申請時には、前案検索を確実に行い、また関連する記述も特許明細書の中に記載する必要があります。本件特許明細書は「本件特許申請時には、作業周期の分割に関する公開技術は存在しない」といった誤った記載をしたため、裁判官が特許の範囲を狭めてしまい、結果として不利になってしまいました。

2)特許明細を執筆する際には、執筆者はまずその技術を理解し、関連する問題を提起・討論する必要があります。本件特許が提示した公式は、とてもよく考えられているものであったのかもしれませんが、特許明細書の記載が簡略すぎたため、現実に発生する問題に対する説明がなされておらず、結果として、裁判官が特許の範囲を解釈する際、本件特許のポイントを「公式からしか理解することができない」という結果を招いてしまいました。

3)特許明細書は執筆後、必ず詳細な確認をする必要があります。特許明細書の記載の矛盾は、被告からの攻撃を最も受けやすいものです。また検証が容易に行えるため、裁判所はそれに基いて特許を無効と判断する可能性があります。

4)特に、外国の申請者が台湾において特許の申請を行う際には、中国語に翻訳された内容が正しいものであるのかどうかを確認する能力がないため、特許が無効と判断されることがよくあります。そのため、特許申請後に専門家にセカンドオピニオンの提起を依頼する必要があります。

徐宏昇弁護士事務所
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