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第185回 作家の手書き原稿の「編集著作」


ニュース 法律 作成日:2015年8月12日_記事番号:T00058666

産業時事の法律講座

第185回 作家の手書き原稿の「編集著作」

 台湾の日本統治時代に作家として活躍した頼和氏(1894〜1943)は、台湾総督府医学学校を卒業後、医者として活躍する傍ら、漢語による漢詩と、口語体の作品を大量に残したほか、新文学運動の理論を立ち上げ、「台湾現代文学之父」とも呼ばれた著名な作家です。

 頼和基金会と、著名な文学史学者である林瑞明教授は、頼和氏の子孫より提供された頼和氏の遺稿と遺物の中から選出した手書き原稿を編集し、新文学巻、漢詩巻(上)、漢詩巻(下)、筆記巻、影像集の計5冊から成る「頼和手稿影像集叢書」をまとめ上げ、00年に出版しました。

 聯合百科電子出版と大人物管理顧問は、09年、権利者の同意を得ずに、前述の5冊の中から新文学巻、漢詩巻(上)、漢詩巻(下)の3冊をスキャンし画像を取得した上で、「聯合百科電子資料庫(データベース)」上に複製し、会員に有料でダウンロードさせたほか、データベースそのものも販売し、利益を得ていました。

 そのため、頼和基金會と林瑞明教授、および頼和氏の子孫は、知的財産裁判所に対して訴訟を提起し、2社に対して、複製行為、公開転送による侵害行為の停止と、損害賠償600万台湾元の支払い、そして新聞に謝罪広告を掲載することを求めました。

オリジナリティーの有無

 知的財産裁判所第一審の判決は、原告が勝訴しましたが、被告が3年間で得た販売金額はわずか17万3,000元(故宮博物院所蔵物の映像も含まれているCDロムの販売による)であったことから、賠償金を30万元としました。これに対し被告原告双方は控訴を提起しました。

 知的財産裁判所第二審の判決は、「頼和手稿影像集叢書」は、頼和氏の遺稿を系統立ててまとめただけのものであり、資料の「選択とレイアウト」には「原創性(オリジナリティー)」は無いため、法律上保護を受けることができる「編集著作」とはなり得ないと判断しました。しかし、一方で、「当該叢書の手稿集部分については、たとえ著作権法による保護を受けることができる編集著作ではないとしても…、権利以外の利益により保護を受ける」と判断しました。さらに被告によるスキャンと複製、および対外販売と公開転送については、「市民の道徳観念、取引の習慣、商業倫理などに反するもので、かつ頼和基金会らの利益を侵害している」と判断し、損害を賠償すべきだとした上で、損害金額は一審と同様、30万元としました。原告はこの判決を不服とし、最高裁判所に上告しました。

 最高裁判所は15年6月18日に二審の判決について、賠償金以外の部分の判決を破棄する判決を下しました。判決の中で最高裁判所は「編集著作は、その資料の選択とレイアウトにより、一定程度の創意性と、作者の個性を表現できれば事足りる。また、資料の選択についても、それが機械的な選択ではなく、編集者の裁量と判断によるものであれば、通常においては創作性を表現していると判断できる」と指摘、林瑞明教授の以下の証言を挙げ、林教授が資料の「選択とレイアウト」を行う上で、独自の思想を発揮したと認定しました。

1)資料の収集と選択について
 「私の研究が評価され、頼和氏の遺族から頼和氏の資料を整理してほしいと頼まれたため、彼らの家に泊まり込みでいろいろな資料を探し出しました。それらははじめからそこらに置いてあったものではありません」「以前は学界で頼和氏を専門に研究している研究者はいませんでした」「中華民国の教育を受けて育った世代は、日本統治時代の台湾の文学家に対する理解はほとんど無く、また、頼和氏のことも知りません」。

2)資料の選択基準について
 「1つ目は、頼和氏を形どれるかどうかを、2つ目は頼和氏の意識形態を表現できるかを考慮しました」「…重要なのは、頼和氏が中国語の話し言葉を台湾語に変換する方法を用いて書いた作品で、その裏には頼和氏の思想と意識形態があったに違いありません」「…もし私がこのような選択を行わなければ、そのような一面は浮かび上がってこなかったでしょう」「多くの雑多な資料に面した時の(他人の)考えと編集方法は、私とは違うものになるでしょう」。

 また、最高裁は二審の判断について、以下のような疑問を投げ掛けました。

1.係争叢書はその資料の選択において、林瑞明氏がその学識により判断をしたものであるが、もし他の選択者が選択をしていたとしたら同じ結果となったであろうか?資料の選択においてはオリジナリティーは発揮されていないと言えるのだろうか?

2.原判決は頼和氏の手稿は全て係争叢書に納められているわけではないと一方的な判断をしているが、同時に、その選択にはオリジナリティーが無いとしている。このことは判決理由上の矛盾である。

3.原判決は「頼和氏と応社の友人と詠った漢詩の資料、頼和氏が病院で収集していた簿記資料、頼和氏が医学学校に書き留めた筆記資料」は、当然系爭叢書に収められることはないと、何ら根拠のない一方的な判断をしている。

 今回の判決から分かることは、第二審の裁判官には人文学方面の教養が欠如していたということです。わざわざ「市民の道徳観念、取引の習慣、商業倫理など」という判断基準を設けてまで問題の解決を図ろうとすらしています。著作権法の主要な目的が人類の精神上の創作であることに鑑みれば、このようなレベルの人文学的教養で、著作権法の立法精神を体現できるのか、とても不安にならずにはいられません。

徐宏昇弁護士事務所
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