ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第182回 情報公開に対する「政府」の抵抗


ニュース 法律 作成日:2015年6月24日_記事番号:T00057704

産業時事の法律講座

第182回 情報公開に対する「政府」の抵抗

 2005年末から施行されている「政府資訊公開法」第5条には「政府情報は本法に基づいて政府により自主的に公開される、または人民の申請によって提供される」、同法第6条には「人民の権益に関連する執政・処置およびそれに関連する政府情報は、政府により自主的に公開されることを原則とする」との規定がそれぞれ設けられています。しかし、政府情報を公開することは、政府の施政の問題点を暴露してしまうことにつながりかねないため、公務員はそれにあまり積極的ではありません。

 台北高等行政裁判所は最近の判決で、教育部は「十二年国民基本教育課程の審議会会議記録および記名投票用紙」を台湾人権促進会に対して公開するよう命じましたが、教育部は上告を行い、それを拒否しました。また、「個人資料保護法」が施行されて以降、政府機関は「個人のプライバシーの保護」の御旗の下に、本来であれば公開されなければならない各種情報を公開していません。これらのことからも、公務員たちが情報公開に対して抵抗姿勢を示しているさまがうかがえます。

カラオケ利用状況も公開拒否

 中華伴唱設備・著作利用人協会(中華カラオケ設備および著作利用人協会。以下「協会」)は、13年4月26日に、経済部知的財産局に対して12年度の「コンピューターカラオケ機によって公開演出市場で利用されている著作権集中管理団体が管理する音楽著作の利用率調査」報告書(以下「報告書」)の提供を求めましたが、知的財産局は以下のような理由から、「提供は困難」としました。

1.本案は(1)機器業者、台数、資料を調査するという形で進められたため、実際の関連要素を読み取ることはできず、(2)また調査資料の多くは二次的レベルの資料であるため、コンピューターカラオケ機器の公開演出市場の全貌を明らかにすることはできない。

2.調査によって取得された資料(店舗名、住所、カラオケ機器のブランドなど)は調査対象者の営業上の資料であるため、秘密保持が必要となる。

 同協会は、訴願が棄却された後、以下のような理由で知的財産裁判所に対して訴えを起こし、情報の公開を求めました。

1.「著作権集中管理団体条例」の規定では、知的財産局は市場利用率調査結果を参考にし、「著作権集中管理団体(以下「管理団体」)」の著作権利用報酬率を調整することになっている。調査報告の内容は、利用リスト、回数、管理団体の割合である。

2.著作権の利用者は、調査結果に基づき、管理団体に対して権利金を打診する。利用者に対して調査結果を公開することは、何らの困難も妨げもなく、また知的財産局が審議を行う上での困難ともならないものであり、管理団体と利用者との間での対立を生むようなものでもない。

 この訴えに対して、知的財産裁判所は14年5月にその訴えを退ける判断を下しました。その理由は以下の通りです。

1.報告書は、最終的には「弘音」および「美華」2社のカラオケ機器についての公開演出データしか集められていない。しかし、台湾における市場には、10社を超えるコンピューターカラオケ機器ブランドがあることからも、報告書はサンプルに限りがあり、コンピューターカラオケ機器の公開演出市場の全貌を明らかにすることはできない。

2.報告書の調査方式は機器メーカーと利用者団体などの協力を得なければならないため、一部の被調査店舗は情報を操作することが可能であった。このため、人為的な要素が調査結果に影響している可能性がある。

3.報告書によって求められたデータの多くは執行機関が直接的に取得したものではない二次的レベルの資料であるため、その信頼性と有効性は、ともに疑いのあるものである。

4.報告書は全体的に完全性と周到性に欠けたものであるため、知的財産局自身も報告書の内容には疑いを持っており、報告書が対外に公開された際にはその解釈が異なってしまい、あらぬ誤解を生むことで、ライセンス市場の安定性を破壊してしまう恐れがある。

5.報告書の内容には、被調査店舗の名称、住所、使用しているカラオケ機器メーカー、およびライセンス状況などが含まれている。そのため、もし公開されれば、それら店舗が法律問題に巻き込まれ、ついては利用者と管理団体との間での対立を生むことにつながる恐れがある。

6.報告書には多くの瑕疵(かし)が認められることから、もし公開されれば、今後知的財産局が同様の調査を行う際に、それら店舗の協力を得ることが難しくなる。その結果、知的財産局が報酬率の審議に必要な報告書などの資料を作成することが困難となり、報酬率の審議が困難、または妨げを受けることになる。

7.報告書に記載のあるデータと、それに基づく統計、分析結果は不可分なものである。そのため、分析結果のみを公開することもできない。

失敗データを参考?

 同協会が本案について上告を行うかどうかは今のところ明らかにされていませんが現在までのところの、知的財産裁判所の判断からは以下の2点が確認されたといっていいでしょう。

1.同報告書は完全に失敗している報告書であり、記載されているデータには何らの参考価値もない。

2.しかし、知的財産局は同報告書を「参考」にし、また報告書中のデータを基にした「分析結果」を根拠として著作権利用報酬率を定める。

 これらのことからも分かる通り、少なくとも今回に関しては、報告書を公開する必要があるでしょう。知的財産局の結論は、政府資訊公開法の立法趣旨に大きく乖離(かいり)したものです。

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw 

産業時事の法律講座