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第94回 不動産の二重売買と債務不履行による補塡賠償


ニュース 法律 作成日:2015年5月4日_記事番号:T00056737

知っておこう台湾法

第94回 不動産の二重売買と債務不履行による補塡賠償

 不動産が第一買主と第二買主に二重に売買され、第二買主が先に登記を取得した場合、売主の第一買主への不動産引渡債務は填補賠償債務に転化することになる。

 この点に関連して、第一買主が手付の額を上回る損害賠償を求めることができるかが問題になった事件がある。

 本件の概要は以下の通りである。

 買主Xは、売主Yと、不動産仲介会社を通じて、2000年11月12日に8件の不動産を合計6,800万台湾元で買い受ける旨合意し、Yに対し手付として500万元を支払った。ところがYは決められた期限までに書面による売買契約の締結に応じず、さらに同年12月21日、22日、28日およびその後に、合計1億90万元で本件8件の不動産を次々に第三者に売り渡し、所有権移転の登記をした。

 そこでXは同年12月28日にYの債務不履行を理由として契約解除を行い、Yに手付の倍額の支払いを求めたところ、Xの請求は裁判所に認められ確定した(09年12月31日台湾高等裁判所97年度上更(四)字第126号判決)。

 さらに、Xは契約解除に基づく損害賠償として、違約手付500万元を控除した、逸失利益1,740万元の支払いも求めた。Yはこれに対し、XY間の手付契約に基づき、手付金の倍額を支払えば足りると主張した。

 14年12月18日最高裁判所103年度台上字第2623号判決は、Xの請求を棄却した二審の判決を維持し、以下の通り判示した。

損害賠償の予定額の性質も

 本件手付契約第3条には、「買主が期限内に代金支払い義務を履行しない場合に手付は売主に没収され、売主が義務を履行しない場合に売主は買主に手付の倍額を支払わなければならない。ただし、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約を解除できる」と規定されている。

 このため、本件手付契約によれば、本件手付は違約手付と解約手付との性質を有しており、かつ、債務不履行に基づく損害賠償額の予定総額を兼ねる手付の性質も有しているものと解すべきである。

 従って、YはXに手付の倍額を償還していることから、Xは手付の額を超える損害の賠償を請求することはできない。

 なお、台湾民法248条、249条が規定している手付は、証約手付および違約手付の性質を有するにすぎないことから、あらかじめ個別契約で、解約手付である旨や損害賠償額の予定について定められていなければ、債権者は手付の額を超える損害の賠償を請求することができる可能性がある。

差額の損害賠償には判例

 また、二重売買のケースで、売主が目的物を引き渡さないことを理由に売買契約が解除された場合、第一買主が売主から賠償を受けられるときには、当該賠償の金額について、第一買主が当該不動産を転売して利益を得るために買い受けたことを証明しなくても、売主が第二の売買から得た利益、すなわち、第一売買の代金と第二売買の代金との差額を損害として賠償請求することができるとの判例法理が形成されている(92年11月27日最高裁判所81年度台上字第2774号判決、90年8月31日最高裁判所79年度台上字第1840号判決)。

コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

黒田法律事務所・黒田特許事務所

1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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尾上由紀弁護士

尾上由紀弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

早稲田大学法学部卒業。 2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

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