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第1回 新鋭Gogoro、電動バイクの正しい売り方?!


ニュース 自動車・二輪車 作成日:2016年8月12日_記事番号:T00065814

台湾産業ココがスゴイ

第1回 新鋭Gogoro、電動バイクの正しい売り方?!

 ワイズニュース読者の皆さま、こんにちは。副編集長の青木樹理と申します。毎日お送りしているワイズニュースのこぼれ話や記事に盛り込めなかった情報をご紹介するコラム「台湾産業ココがスゴイ」の連載を始めます。本コラムを通じて皆さまの理解がさらに深まると幸いです。第1回は、このほど海外進出を果たした電動バイク(EVバイク)「Gogoro」を取り上げます。

/date/2016/08/12/20gogoro2_2.jpg25~30歳の若者をターゲットに、ポップなデザインのオプションパーツを取り揃えています(YSN)

 台湾に来てまず驚くのは、路上を走るバイクの多さではないでしょうか。台湾の人口2,350万人余りに対し、バイクの数はなんと2,144万台。ショッピングセンター(SC)や量販店などの地下駐車場にはバイクのために広~いスペースが用意されています。一方、バイクの排ガスはPM2.5(微小粒子状物質)による大気汚染の元凶とされ、2009年から経済部工業局や地方自治体が補助金を支給し、電動バイクへの買い替えを奨励しています。

 こうした中、電動バイク市場に参入したのが「Gogoro」ブランドの睿能創意(Gogoro台湾)です。15年7月の発売翌月には電動バイク市場シェア55%で首位に浮上し、4日付トップニュース「電動バイクのGogoro、独でレンタルサービス」(https://www.ys-consulting.com.tw/news/65628.html)でお伝えしました通り、わずか1年で累計販売台数1万台を突破し、8月に独ベルリンでのレンタルサービスで、海外進出を果たしました。

/date/2016/08/12/20gogoro_2.jpgGogoroは電動バイク界のiPhoneといわれています(同社リリースより)

HTC出身者のベンチャー

 大躍進を遂げる睿能創意とは、一体どんな会社なのでしょうか。創業者、陸学森(ルーク・ホラス)執行長(最高経営責任者、CEO)は香港出身のインダストリアルデザイナーで、マイクロソフト(MS)で10年間勤務していたところを、06年に受託生産からブランドへの事業転換を決断した宏達国際電子(HTC)にヘッドハンティングされ、HTC創意長(クリエイティブ・ディレクター、CD)に就任しました。「iPhoneのライバル」と評されるほどにHTCのスマートフォンを世界に知らしめた08年発表の「HTC Touch Diamond」は、陸氏が陰の立役者です。陸氏はその後も次々と人気機種を設計し、GSMA協会の最優秀賞(11年)をはじめ、HTCに高い国際的評価をもたらしましたが、11年4月に「一身上の都合」でHTCを去りました。その3カ月後、同じくマイクロソフト、HTCを歴任したマット・テイラー技術長(最高技術責任者、CTO)と共同で設立したのが睿能創意です。

 睿能創意の経営陣はほかに、弁護士資格を持ち、HTC最高法務責任者(CLO)を務めていた雷憶瑜・営運長(最高執行責任者、COO)、HTC財務長(最高財務責任者、CFO)だった鄭慧明顧問と、HTC出身者ばかりです。

 睿能創意の出資者には、量販店大手の大潤発(RTマート)をはじめ、建設、アパレル、金融事業などを幅広く展開している潤泰集団(ルンテックス)の尹衍樑(サムエル・イン)総裁、政府系ファンドの行政院国家発展基金(国発基金)、パナソニックが名を連ねています。パナソニックはGogoroにバッテリーを供給しています。

スマホ的マーケティング

 HTC出身の陸氏が経営する睿能創意は、スマホのマーケティング手法をうまく取り込んでいます。例えば、発売当初「Gogoro」は12万8,000台湾元、「Gogoroプラス」は13万8,000元と、ガソリンエンジンのバイクより1つゼロが多く、月給3万元足らずの若者には手が出せないといわれていました。3カ月後、早速3万元値下げして価格10万元以下を実現すると同時に、8万8,000元の「Gogoroライト」をラインアップに追加しました。ローエンド、ミドルエンド、ハイエンドを取り揃えるスマホを思わせます。

 16年4月には量販店最大手の家楽福(カルフール)でGogoroの販売を開始し、庶民的なイメージづくりに成功しました。バイク販売が1店舗当たり6倍に増えたといいます。7月からはRTマートでも購入できるようになりました。

 また、5月から通信キャリア大手、遠伝電信(ファーイーストーン・テレコミュニケーションズ)のショップでも販売しています。2年間の第4世代移動通信(4G)新規契約で最高2万元引きとなり、政府の補助金を合わせれば4万3,000元から購入できるキャンペーンを実施中です。なんと、発売当初の約3分の1の価格です。

 一方、Gogoroのバッテリーは、充電式ではなく交換式のため、バッテリー交換プランを契約することになります。この携帯電話の通信契約のような方式が、睿能創意に安定収入をもたらしています。こちらも当初の899元の使い放題プランは廃止し、現在は月額249~799元の各種プランから選べるようになりました。

 Gogoroのバッテリー交換スタンド「GoStation」は、15年11月からセブン-イレブンなどコンビニエンスストアにも設置され、今や基隆市から彰化県まで9県市225カ所にあります。近くの「GoStation」はスマホの専用アプリで手軽に確認できます。公共レンタサイクル「YouBike(ユーバイク、微笑単車)」と同じ仕組みとはいえ、スマホアプリに目を付けたのは、HTC出身者なら当然といったところでしょう。

失敗を教訓に?

 HTCは、ちょうど陸氏がHTCを離れた後、11年11月に創業以来で初めて業績見通しを下方修正しました。それを境に、スマホ上位ブランドの地位から転落し、今も低迷が続いています。

 HTCの王雪紅(シェール・ワン)董事長に何度も「天才」と言わしめた陸氏は、「自分の設計で世界を変えたい」という言葉で尹総裁の心を動かし、4,000万米ドルの出資を引き出しました。インダストリアルデザイナーから経営者に転じた陸氏は、睿能創意が強力なライバルや市場規模の縮小に直面した時に、HTCの失敗経験を教訓に、うまく乗り越えることができるのでしょうか。

ワイズメディア 青木樹理

台湾産業ココがスゴイ