復興航空（トランスアジア航空）傘下の格安航空会社（ＬＣＣ）、威航（Ｖエア）は経営不振で、10月４日から１年間の営業停止が決まりました。本紙「８月の５大ニュース！」の２位「Ｖエア営業停止決定、事業環境の厳しさ浮き彫り」（ワイズ会員限定https://www.ys-consulting.com.tw/news/66204.html）でお伝えした通り、▽市場規模の小ささ▽ＬＣＣ専用ターミナルがなくコスト引き下げが困難──など台湾の厳しい事業環境が主因とみられ、中華航空（チャイナエアライン）傘下のＬＣＣ、台湾虎航（タイガーエア台湾）の今後が注目されています。

出遅れ、日台相互の観光客を奪えず

　台湾は日本と同じ島国ですが九州ほどの面積で、台湾高速鉄路（高鉄）や台湾鉄路（台鉄）、高速バスの路線網が発達しており、ＬＣＣ台湾域内線の出番は見当たりません。そこで台湾系ＬＣＣが開拓すべきは、アジアを旅行する台湾人、アジアから台湾を訪れる外国人となります。

　タイガーエア台湾は2014年９月、Ｖエアは同年12月に初就航し、日台相互を訪れる観光客を主なターゲットに、東京のほか、日本の地方都市にも次々と乗り出しました。ところが、日本で「ＬＣＣ」が12年新語流行語大賞に選ばれた翌々年と出遅れが響き、桃園空港の発着便の搭乗率は上図の通り、ピーチ・アビエーションやバニラエアに届かないままです。

　出遅れた影響として考えられるのは、台湾人がＬＣＣを利用する際に、言葉の問題のない台湾系ＬＣＣだけでなく、これまでに乗ったことがある安心感から日系ＬＣＣが選択肢になることです。

　日本人が日系ＬＣＣを選ぶのは自国の航空会社という以外に、台湾旅行のスタイルも関係していそうです。交通部観光局の統計によると、日本人旅行者の６月の訪台旅行の台湾滞在期間は、２泊が39％、３泊が28％を占めました。連休や週末を利用した短期の旅行のため、少し高くても時間帯が比較的良い日系ＬＣＣを選ぶのでしょう。ここでも台湾系ＬＣＣは参入が遅く、良い時間帯を選べなかったことが敗因の一つとなっています。

　さらに日本人旅行者の場合、ＬＣＣより航空券が高くとも、台北市内の松山空港の方がいいと考える人も多そうです。松山空港から出境する日本人旅行者は24％、桃園空港は68％と、台湾人の松山空港６％、桃園空港74％と比べ、その傾向が顕著です。

東南アジアが鍵に

　中華航空の何煖軒董事長は、タイガーエア台湾も累積損失が膨らんでおり、年末に撤退するか結論を出すと述べました。長栄航空（エバー航空）の林宝水董事長は、今後もＬＣＣを設立する考えはないとの考えを示しています。台湾系ＬＣＣは消滅してしまうのでしょうか。

　ただ、桃園空港の発着便の市場シェアの推移（下図）をみると、タイガーエア台湾は右肩上がりの成長が続いています。ピーチやバニラを上回るのみならず、６月は約３％と、▽中華航空、24.8％▽エバー航空、22.69％▽キャセイパシフィック航空、9.59％▽復興航空、3.2％──以外はシェア３％以下で横並びの市場で健闘しています。しかも今後はＶエアの既存顧客を取り込むことができます。

　Ｖエアは撤退発表時に、バンコクやチェンマイ路線は搭乗率77％以上だったと強調していました。タイガーエア台湾は、シンガポール、バンコク、コタキナバルに就航しています。同社公式サイトは英語、タイ語、マレーシア語、インドネシア語にも対応しており、タイガーエア、セブゴー（元タイガーエアフィリピン）、セブ・パシフィック航空、スクートの航空券を選択することができ、東南アジアの人にとっても利便性が高そうです。

　昨年下半期から今年にかけ、▽ジェットスター・ジャパン▽ノックスクート▽セブ・パシフィック▽ベトジェットエア▽マリンド・エア──が就航、または就航を予定していることから、台湾～東南アジア路線は有望市場との見方がうかがえます。東南アジアとの関係を強化する蔡英文政権の「新南向政策」で往来が増える期待感もあります。唯一の台湾系ＬＣＣとなるタイガーエア台湾が、再度飛び立ち、軌道に乗るといいですね。

ワイズメディア　青木樹理