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【ワイズリサーチ】日中関係の緊張が
台湾機械業界にもたらす影響


リサーチ 経営 台湾事情 作成日:2013年8月8日

機械業界 工作機械・産業機械

【ワイズリサーチ】日中関係の緊張が
台湾機械業界にもたらす影響

記事番号:T00062461

一.中国における日本工作機械先導企業の投資概況

 2000年、工作機械業界で世界一の規模を誇るヤマザキマザックが、中国の長城機械製造集団と共同で、中国寧夏に小巨人工作機械会社を設立した。寧夏小巨人工作機械工場の現場では、NC数値制御工作機械やMCなど先端機械を生産するために、ヤマザキマザックの最先端工作機械が導入されている。また、2011年8月にはCNC工作機械と小型マシニングセンター(MC)を生産するため、50億円の資金を投入することも発表した。その工場は2012年10月に完成し、2013年からは大量生産を行えるようになると推測され、生産能力は毎月約100台に達するとも予想されている。また、ヤマザキマザックは上海、広州、大連、北京にも技術センターを設置している。

 ジェイテクトは世界中の工作機械メーカーに部品(全てのステアリングシステム、 駆動、軸受)を提供するサプライヤーである。2005年3月、日本株式会社ジェイテクトは、大連に登録資本金2,400万円のジェイテクト科技中心(大連)を設立し、また天津、福建、広東、江蘇省無錫市などにも、15か所の生産拠点も設置した。

 森精機は比較的保守的な投資を展開している。以前は従業員10人ほどを配置したマーケティングサービス拠点を上海に設置していたのみであったが、近年では2012年8月に、40億円を投入して天津に工作機械工場を開設した。その工場の主要製品は、CNC工作機械とその周辺部品であり、2013年9月から生産をし、生産 能力は毎月約100台に達すると推測されている。

 アマダグループは1996年に中国企業と合資で、北京天田工作機械モジュール会社を設立し、江蘇、上海、北京にも拠点を設置した。上海の拠点では元々アフタサービスだけを提供していたが、円安ショックに対応するべく、2011年7月からは上海青浦工場エリアで自動車や電子板金加工用のレーザ加工機器の生産を開始し、2013年には10〜15台までに生産規模を拡大する計画を立てている。

 オークマは1993年8月に、中捷友誼(旧瀋陽第二工作機械工場)と技術協力を行い、2003年には北京第一工作機械との合資で北一大隈会社を設立した。当社は中国に二つの拠点を設置している。中国での工作機械工場の生産能力の向上を図るため、2011年には10〜20億円規模の投資を行った。2013年以前には、生産量を現在の60台/月から、200台/月まで引き上げることを目指している。

 コマツは2011年4月に、江蘇常州に新たな生産拠点を設置し、その年間生産能力は9,140台に達すると予測されている。(図1参照)

二.中国への投資における日本企業と外資系企業の競合関係

 先日、世界一位と三位の工作機械メーカーである森精機とDMGが、提携協定を結ぶこと発表した。今後両社は互いの5%の株を購入し、工作機械に関する研究開発、購買、製造などの長所を生かし、更に高い競争力を持つ機種の開発を目指す。これにより、ハイエンド工作機械の世界市場は新たな局面に入るに違いない。DMGは経済的な工作機械に関する開発において、相当な経験を蓄積しているため、この両者の連携はミッドエンドの生産を得意とする台湾企業に脅威となる可能性がある。

 複合加工機に関する経験値の少ないDMGは、森精機の強みである経験を活用し、自社力を強めたい意図がある一方、5軸加工機の生産には長じているものの、日本通産省の輸出規制により輸出量が制限されてしまった森精機にとっては、DMGモードに則り、制御器をハイデンハイン製に取り替え、5軸加工機の販売量を増やすことが、提携協定締結の意図である。
 この提携により、両社は互いのリーソスが共有できるうえ、更に強力で安価な工作機械の開発が可能となる。このため、ハイエンド工作機械の大手メーカーであるマザック、オークマなどに対し、相当の衝撃を与えることが見込まれる。 また、マザックが中国寧夏に設置した工場で生産する安価の工作機械と、台湾が中国に輸出している安価な工作機械の脅威が増しつつあることに、台湾業者は注意を払うべきであろう。しかしながら、ミッドクラス工作機械の生産に専念する台湾業者にとって、すぐさまこの影響が及ぶということは無いと考えられる。(表1参照)


三.日中関係の衝突拡大がもたらす影響

 尖閣諸島に上陸した香港人が逮捕された件により、日本政府は2012年9月11日に、尖閣諸島を買収して国有化にすることを宣言した。そのため、中国での反日感情が高まり、数十か所の都市で反日デモが行われ、日本商品もボイコットされた。日中の対立関係が深刻化し続ける場合、日本、台湾及び他の国の工作機械にメーカーに及ぼす影響としては、下記のようにまとめることができる:

1.日本企業への影響

 日本の工作機械業者が海外展開した目的は、急激な円高がもたらす輸出上のデメリットや国際価額競争及び国内外の市場構造の変化に対応するためである。また、中国に生産基地を設置した理由は、成長した中国市場と低い人件費にある。

 日本の工作機械メーカーが中国で展開するマーケティング戦略は「二元化」であり、これは取引先を中国のローカル企業と、中国にある外資系とに分けることを意味する。

 そのマーケティングアプローチは、日本の工作機械メーカー(ヤマザキマザックなど)のチャンネルを通し、日本産の工作機械を中国の外資系企業へ輸出しながら、中国に設置した生産基地(寧夏小巨人工作機械工場など)で、ミッドエンドとローエンド工作機械の販売・製造を提供するものである。これにより、日本メーカーのブランドイメージは傷つけられずに、中国工作機械市場の実際的なニーズに適切に対応した工作機械を提供できるようになる。

 こうした前提のもと、日中対立が拡大し続けた場合、日本企業は東南アジア市場で近年拡大し続ける工作機械への需要に対応するため、ミッドエンドとローエンド工作機械の生産基地を東南アジアへ移転すること検討する可能性がある。そうなると台湾が生産した設備を購入するようになる可能性もある。

 また、日本企業が生産したハイエンド工作機械を中国に輸出することに対し、日本の通産省は多くの制限を設けているため、日中対立が今後も深刻化し続けた場合、中国におけるハイエンド工作機械のシェアを増やしたい日本企業に影響が出る恐れがある。

2.台湾企業への影響

 日中対立が拡大し続けた場合、ミッドエンドとローエンド工作機械の製造と販売を中国で行う日本工作機械メーカーには影響が出る可能性がある。中国生産拠点への注文が変更される恐れがあるのだ。そのため、台湾企業にとってすれば、精度が日本製品に近いうえ、日本製品の85%の値段であり、また欧州製品よりも安いことから、その注文変更先としての恩恵に与れる可能性が出てくる。隣国の韓国も今回の注文変更に乗じ、その恩恵に与る可能性がある。

3.他の外資系企業への影響

 ローエンド工作機械に対する中国市場の需要は、ローカル製品の品質向上と政府の強力なサポートにより、ローカル製品でその需要を満たせるようになってきている。しかし高精度、高加工効率が求められているミッドエンドとハイエンド工作機械に対するニーズは、依然としてドイツ、日本、台湾、スイスなどの輸出に頼っている上に、そのニーズは増加の傾向にある。そのため、日中対立が拡大し続けた場合、高精度と軍事産業に対する中国市場の需要も、日本以外の国へ輸入先が変更される可能性がある。つまり、これまで日本製品を購入していた中国企業が、これを機に欧州(ドイツ、イタリアなど)のメーカーと取引するようになる可能性があるのだ。

 また今回の日中関係の悪化は、中国の高精度工作機械独自開発への動きを加速させた。日本など先進国からの束縛から脱し、真の生産大国になるという目標へ近づいたのだ。

四.結論

 現時点における日中関係の緊張が、すぐさま中国工作機械市場に大きな影響を与えるとは考えにくい。その理由は、日本は中国と技術力の点で大きな差があるうえ、中国にとって日本は、複合加工機とNC工作機械輸入の額・量共に最大の相手国だからである。工作機械は生産財であり、製品品質と安定性が要となる。中国もこの点を重視しており、またドイツの複合加工機とNC工作機械の卸価額は日本製品よりも高価のため、中国がハイエンド工作機械やドイツ製品より価額の高い工作機械へ短期間で変更するとは考えにくい。

 日中関係の緊張はいつか正式な外交交渉に回帰し処理される。この事件が日本工作機械メーカーの中国市場戦略を保守的な方向へ変更させる可能性はあるが、それでも日本企業は中国の広大な市場の秘めるポテンシャルに期待を寄せている。日本と中国は技術力においてかなりの差がある。台湾の技術力は両者の中間に位置し、なおかつ日本企業よりも中国市場の状況を理解している。またECFAがもたらしたメリットもあるため、台湾を中国市場へ参入する前哨基地として、日本の投資を台湾に呼び込むのに有利である。即ち、台湾工作機械メーカーには日中両国の架け橋になりうるというビジネス上の強みがあるのだ。

 現在、いくつかの日本工作機械メーカー(日本滝沢鉄工と台湾企業合資の台湾滝沢、日立の株を保有する東台精機及び日本オクラ、台湾大同との合資である大同オクラなど)は既に台湾に拠点を設置し、現地人材の育成と生産拠点としての能力向上に取り組んでいる。また、実際にこうした人的資源と技術力を武器に、中国市場への参入も果たしている。

 こうした機会に乗じて、台湾は産業全体のレベルアップと構造改革が期待されるほか、外資が中国へ参入する際の窓口的役割を行うことで、国際分業システムにおける弱いポジションからの脱却も期待できる。

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