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第364回 董事長の代表権/台湾


ニュース 法律 作成日:2023年8月23日_記事番号:T00110707

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第364回 董事長の代表権/台湾

 海揚国際実業は2009年9月21日に「橘平屋」の商標登録を出願しました。同年11月30日、ブルネイの至盛国際(ESITO International Corporation)は、同社と海揚国際実業が同年11月27日に締結した「商標出願権譲与同意書」に基づき、台湾の経済部智慧財産局(日本の特許庁に相当)に対し、商標登録出願者をESITOに変更するよう求めました。

 しかし、これに対して海揚国際実業は、同意書に署名した蕭万徳氏は、同年11月20日以降、同社の董事長ではなく、同意書も董事会(取締役会)の同意を得たものではないため無効であると主張し、商標登録出願権の返還を求めてESITOを提訴しました。

 智慧財産法院(知財裁判所)は11年10月の第一審で原告の請求を棄却する判決を下しました。原告はこれを不服として上訴しましたが、それも12年5月に棄却されました。この訴訟は13年5月、14年8月、20年11月の3回にわたって最高法院(最高裁判所)により差し戻され、智慧財産法院は21年12月、棄却判決を下しました。

 そして最高法院が23年7月に上告棄却の判決を下し、これが確定しました。

 確定した第二審の判決理由は以下のとおりでした。

同意書は有効

1.董事長が会社を代表して行う取引行為が、取引相手の善意の下で行われたものであるとき、会社は董事会(取締役会)の同意を経ていないことや、同意に瑕疵(かし)があることを理由にその効力を否定することはできない。

 善意の第三者は、会社の董事長がその権限を超越している状況の下、董事長がその権限を持っていないことを知らずに、取引を行った相手を指す。

2.海揚国際実業公司の定款では、会社の投資事業については事前に董事会の同意を得なければならないと定めているだけである。海揚国際実業は過去、対外的な取引に関して董事会を開いて決議を行うことはしておらず、蕭万徳氏に、対外的に会社を代表する権利を付与していた。

 ESITOは蕭万徳氏が海揚国際実業を代表すると信じて、当該同意書に署名したものであり、これは善意の第三者と言える。

3.蕭万徳氏は海揚国際実業の株主である安有投資から派遣された代表であり、安有投資の代表として海揚国際実業の董事長を務めていた。

 安有投資は09年11月20日に別の代表を派遣したが、海揚国際実業の董事長変更の登記が完了したのは11月29日だった。

 故に蕭万徳氏が11月27日の時点で署名した同意書は有効である。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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