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第362回 自分の作品を歌う/台湾


ニュース 法律 作成日:2023年7月26日_記事番号:T00110205

産業時事の法律講座

第362回 自分の作品を歌う/台湾

 張凱沂が代表を務める無懼股份有限公司は2016年8月、台中市の文心森林公園で「2016無懼音楽祭(NO FEAR  FESTIVAL)」と題するコンサートを開きました。その中には、楊正大と彼が所属するロックバンド「滅火器(Fire EX.)」のメンバーが、楊大正が作詞・作曲した楽曲を自らステージで歌うというプログラムも入っていました。

 これに対して社団法人中華音楽著作権協会は、これらの楽曲は楊正大が同協会に独占的許諾を授与したものであり、張凱沂が同協会の許諾を得ずに「滅火器」にこれを歌わせたことは、楽曲の公開演出権を侵害したことになるとして刑事告訴しました。

著作権協会の同意が必要か

 検察官による起訴を受け、台中地方法院(地方裁判所)が審理を行いましたが、同院は2019年10月に無罪判決を下しました。

 理由は、音楽著作の創作者が当該音楽著作について公開演出権等の著作財産権を享受するのは、著作権法規の下での常態であるはずだというもので、楊正大が自分の歌を歌うのに中華音楽著作権協会の同意を得なければならないということを知らなかったという被告の証言は信頼できると判断したのです。

 しかし、検察官が控訴すると、智慧財産法院(知財裁判所)は2020年3月、今度は被告を有罪とする判決を下しました。

 その理由は、無懼股份有限公司の業務内容には「知的財産権業務」が含まれており、被告が芸能活動及びそれに関する知的財産権に関与する身であったことを考慮すると、コンサートを開催して楽曲を公開演出する際は協会から利用許諾を得なければならないことは知っていたはずだというものでした。

楽曲の登記は必要か

 今度はこの判決を不服として被告が上告したところ、最高法院(最高裁判所)は2022年4月に原判決を破棄するとの判決を下しました。

 判決の理由は以下のとおりです。

1. 楊正大と告訴人の間には著作権の独占的許諾が成立していたが、契約の規定では、独占的許諾を授与した者が予め協会に著作の名称を登記していなければ、協会から使用報酬の分配を受けられないとなっている。

 しかし、資料を見る限り楊正大が同協会に問題となっている楽曲について登記を行ったという証拠がない。ゆえに同協会の告訴権には問題がある。

2. 原判決は、「創作者である楊大正が、自らが創作した当該音楽著作について、演出の権利を持たないにも関わらず無許可で公開演出した故意」を被告が知っていたかどうかについて、改めて明確にすべきである。

 2023年6月28日、智慧財産法院はこの訴訟について、被告を有罪とする判決を改めて下しました。

 判決の理由は「すでに中華音楽著作権協会に加入しているということは、加入者のあらゆる著作はその独占的許諾を協会に授与していることになり、登記を行う必要はない」というものでした。

 さて、今回の判決を最高法院が支持できるかどうか、ぜひご注目いただきたいと思います。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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