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第363回 中国での判決を台湾で執行/台湾


ニュース 法律 作成日:2023年8月9日_記事番号:T00110450

産業時事の法律講座

第363回 中国での判決を台湾で執行/台湾

 黄淑芬と林文傑はサモアで星騰管理公司の登記を行いました。持ち株比率は黄淑芬が59.75%、林文傑が40.25%でした。

 星騰管理公司は2001年、中国で星騰電器(寧波)有限公司を設立し、林文傑が副総経理に就任しました。しかし、黄淑芬は2012年に林文傑を解任。星騰電器は契約違反のトラブルに陥ったため、業務が停滞してしまいました。

 そこで黄淑芬は700万米ドルで林文傑が持つ星騰管理公司の株式を購入すると約束し、400万米ドルを支払いました。しかし、黄淑芬が残りの300万米ドルを支払わなかったため、林文傑は2015年、中国・浙江省寧波市の中級人民法院で、黄淑芬を相手取って裁判を起こしました。

 同法院は林文傑の訴えを認め、黄淑芬に300万米ドルに加え、弁護士費用50万人民元(約990万円)と違約金15万米ドルを支払うよう命じました。

 判決確定後、林文傑は中国の裁判所が実施した強制執行により1652万人民元を得ました。また、残る約700万人民元について台湾士林地方法院(地方裁判所)に強制執行を申し立てたところ、2018年にこれが認められました。

 強制執行の開始後、黄淑芬が「債務人異議之訴(請求異議の訴え)」を提起しました。その主張の内容は、「中国の裁判所が弁護士費用50万人民元の支払いを命じたことは公序良俗に反する。中国の二審判決が自分(黄)の弁護士に送達されたとき、当該弁護士はすでに解任された後であり、判決は合法的に被告に送達されていない。ゆえに台湾の裁判所は、中国の裁判所の判決を執行するこが出来ない」というものでした。

協議書に明記

 これに対して台湾士林地方法院は2020年8月の第一審で、黄淑芬の訴えを棄却しました。黄淑芬は上訴しましたが、台湾高等法院(高等裁判所)は2021年、この訴えを棄却しました。判決理由は以下のとおりです。

1.台湾の民法の規定に基づけば、双方が2012年に行った協議が詐欺あるいは脅迫によって成立したものであれば、1年以内に取り消さなければならない。

 しかし、黄淑芬は2015年、中国の裁判所で「星騰電器の価値は2100万人民元しかなく、協議で決めた700万米ドルを200万米ドルに引き下げるよう要求する」ことを主張しただけであった。

 それを2018年になって台湾の裁判所で「協議の取り消し」を求めたのである。これは1年の期限をとうに超えている。

2.中国・浙江省司法庁は法律費用に関する関連規定を定めているものの、双方の協議書には違約した一方が弁護士費用を支払うことが明記されている。この約定は公序良俗に反しておらず、無効でもない。

3.本案件は中国の裁判所がすでに強制執行を認めており、判決の送達が合法かどうかの問題は存在しない。

 最高法院(最高裁判所)は2022年1月、上訴を棄却する判決を下しました。黄淑芬はこの判決に対して「再審請求」を行ったものの、2022年11月に棄却されました。上訴後も最高法院によって2023年4月に棄却されています。

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士

徐宏昇弁護士事務所

1991年に徐宏昇法律事務所を設立。全友電脳や台湾IBMでの業務を歴任。10年に鴻海精密工業との特許権侵害訴訟、12年に米ダウ・ケミカルとの営業秘密に関わる刑事訴訟で勝訴判決を獲得するなど、知的財産分野のエキスパート。専門は国際商務法律、知的財産権出願、特許侵害訴訟、模倣品取り締まり。著書に特許法案例集の『進歩の発明v.進歩の判決』。EMAIL:hiteklaw@hiteklaw.tw

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