ニュース 法律 作成日:2023年5月24日_記事番号:T00109099
産業時事の法律講座陳星憲は2017年、百励創新科技で機械系エンジニアとして働いていました。退職するにあたり、会社から与えられていたメールアドレスのメールボックスから、MAP機械設備の構造設計図を含む電子メール48通を個人のメールアドレスに転送した上で、会社のメールボックス内から削除しました。
検察官はこれを刑法第359条の「同意なしに他人の電子計算機から電磁的記録を取得、削除した罪」に当たるとして陳を起訴しました。
新北地方法院(地方裁判所)は22年5月、被告に懲役6月の有罪判決を下しました。被告は不服として控訴。台湾高等法院(高等裁判所)は同年12月、今度は被告を無罪とする判決を下しました。
その理由は以下のものでした。
1.被告は電子メールの内容を取得する権利を有する。また、それらを個人のメールアドレスに転送することは、会社が許可する範囲であるし、会社に損失を与えていない。
2.会社の社員はもとより電子メールを削除することが可能。被告はメールを削除したが、会社に損失を与えてはいない。
検察側が上訴し、最高法院(最高裁判所)は23年5月、原判決破棄の判決を下しました。理由は以下の通りです。
廃棄してはならない契約か
1.いわゆる「同意なしに他人の電子計算機から電磁的記録を取得、削除」することには、▽「正当な理由がなく」、▽「処分の権限を持たずに」、▽「所有者の意思に反して」、▽「権限を与えられていないのに、あるいは与えられた権限を越えて」──の4つの状況がある。
被告の業務契約ではすでに、被告が約定の物品を所持、廃棄してはならないと約定している。電子メールの中にあった「数々の見積書、図説、パワーポイント、議事録、週報等が、被告が所持したり廃棄してはならないと定めた契約の範疇(はんちゅう)に属さないものか」原裁判所は詳しく審査すべきである。
2.法律が言うところの「致生損害(=損害を与える)」は決して、財産あるいは経済上の利益に対してすでに実質的な損失を与えている場合に限らない。
電磁的記録を処分する権利を持つ人が、電磁的記録に対して「独占的」に有する支配、制御、あるいは完全な使用といった権利を破壊し、電磁的記録の所有者、処分権者あるいは公共の利益に害を与える場合も「致生損害」と言うことができる。
この判決が示す犯罪の成立基準は非常に低いと言えます。表向きには会社の機密保護のレベルを引き上げているかのようにも見えます。しかし、この基準に基づいて判断するならば、会社の職員を簡単に罪に問うことができてしまいます。
たとえ裁判官でも、裁判所の電子メールを削除しただけで罪に問われる可能性があるわけです。ですから企業にとっても必ずしも良いこととは限りません。
徐宏昇弁護士
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