ニュース 法律 作成日:2014年10月6日_記事番号:T00053073
知っておこう台湾法会社法第23条第2項は、会社責任者が会社の業務執行において法令に違反して第三者に損害を与えた場合、会社責任者は当該第三者に対し、会社と連帯して賠償責任を負わなければならないとされている。
しかし、台北地方裁判所2014年金更一字第1号判決によれば、登記上の名目的な責任者にすぎず、実質的に会社業務の取り扱いに関与しない者は、会社法第23条第2項の責任を負わないとされた。
本件の概要は以下の通りである。
被告Y1はY2社の登記上の責任者(董事長兼総経理)であるが、Y2の実質的な責任者は訴外甲であった。また、訴外乙および丙はY2の被用者である。
甲、乙および丙は、Y2が銀行法に基づき設立された信託投資会社ではなく、証券投資信託および顧問法による主務機関からの許可も得ておらず、さらにY2が販売していたAファンドおよびBファンドが主務機関の販売許可を得ていない海外ファンドであることを明らかに知っていたにもかかわらず、乙および丙はAファンドおよびBファンドが主務機関から販売許可を得た海外ファンドであり、報酬率も高く、利益も安定的であるなどと説明して、X1、X2およびX3にAファンドおよびBファンドの購入を勧誘し、X1、X2およびX3はAファンドおよびBファンドを購入した。
その後、X1、X2およびX3は甲、乙および丙の行為が銀行法、ならびに証券投資信託および顧問法に違反することを知った。
そこで、X1、X2およびX3は、Y2は民法第28条、188条等により被用者(乙および丙)の行為について賠償責任を負うため、Y1はY2の責任者として民法第185条の共同不法行為責任、会社法第23条第2項の会社責任者の不法行為責任等により、Y2と連帯して賠償責任を負わなければならないと主張し、Y1に対し訴えを提起した。
個人的な違法行為と認定
裁判所は審理の上、以下の判断を下した。
Y1はY2の登記上の責任者であるが、実質的な責任者は甲である。また、Y1はAファンドおよびBファンドに関する販売、宣伝、商品の設計などを行ったことはなかった。さらに、Y1はY2の登記上の責任者として、X社の経営状況に対して監督する責任を負うとしても、主務機関からの許可を得ている営業項目の範囲内のみに限られる。
しかるに、AファンドおよびBファンドの販売はY2の営業項目の範囲に含まれておらず、また、Y1が甲、乙および丙の違法行為を知りながらY2の登記上の責任者に就任したことを、X1、X2およびX3は証明できなかった。
従って、甲、乙および丙によるAファンドおよびBファンドを販売する行為はあくまで個人的な違法行為であることから、甲、乙および丙の行為について、Y1に不法行為責任を負わせることはできない。
さらに、会社法第23条第2項における「会社の業務執行」とは、会社の責任者が会社に関わる事務を扱うことを指すが、Y1はY2の登記上の責任者にすぎず、Y2の業務執行に実際に関与していなかったことから、会社法第23条第2項は適用されない。
台北地方裁判所は以上の理由をもって、原告の訴えを棄却した。
「会社責任者」が、単なる登記上の名目的な責任者であり、実際に会社業務を取り扱っていない場合には、会社法第23条第2項が適用されない可能性があることから、董事などの「会社責任者」に対して損害賠償を請求する場合には、注意が必要である。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
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1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
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