ニュース 法律 作成日:2015年7月13日_記事番号:T00058056
知っておこう台湾法民法第188条第1項によれば、被用者(従業員)が職務執行により他者の権利を不法に侵害した場合、使用者は被用者と連帯して責任を負うとされている。
この点に関し、最高裁判所は2015年5月29日に104年台上字第977号民事判決において、「職務執行」には命令または委託に基づく職務執行のほか、1)被用者による職務の乱用行為、2)職務上の機会を利用した行為、および3)職務を執行する時間や場所と密接な関係があり、また、職務執行とも関係があり、かつ他者の権利を不法に侵害していると客観的に認めるに足りる行為も含まれるべきであるが、客観的に被用者による職務執行の外観を備えていない場合、または職務執行とは無関係な被用者個人の犯罪行為である場合には、民法第188条第1項の適用はないと判断した。
本件において、11年4月、AはB社の被用者であるとするCから、翡翠などの高価な宝飾品をCに預ければ、オークション会社を通じて売れるなどと言われ、Aは300万台湾元の価値の宝飾品(以下「係争品」という)をCに引き渡した。ところが、Cは12年1月、係争品を無断で質に入れた。
Aは、Cの行為により係争品を失うという損害を被ったのであるから、Cの使用者であるBは、民法第188条第1項前段に基づき、Cと連帯して賠償責任を負わなければならないとして、BおよびCに対し、訴訟を提起した。
これに対しBは、BとCとの法律関係は請負であり、CはBの被用者ではなく、また、Bの営業項目には、顧客を代理してオークションで売ったり、アクセサリーを出品したりするといった項目はなく、CがAの委託を受けて係争品をオークションで売ったり出品したりしたことは、Cの職務執行によるものではなく、個人的な行為であり、Bが使用者としの連帯賠償責任を負うことはないと主張した。
職務執行との関連性の判断基準
最高裁判所は、上記主張に対し、以下の通り判断した。
BとCとは請負契約を締結しているが、同契約の特約三には、「違反した場合には解雇するとともに法により処分する」という記載があり、また、証人の証言によると、Cが口述試験に応募して、Bのテレフォンマーケティングの専門要員担当となったこと、Bが就職前訓練を行い、顧客名簿を配布して、業務において順守すべき事項を指示し、朝礼、昼礼では行動規範を告げていたこと、CがBでの勤務に当たり、毎日の出退勤時にタイムカードに打刻し、電話での顧客開拓、控訴人商品の販売などを行っていたことが認定できる。
従って、一般的な社会通念によれば、CはBのために労務を提供し、その監督を受ける者であり、Bの被用者であると認めるに足りる。しかしながら、捜査の過程においてAが述べたところによると、Cは係争品を受領した後、個人の名義で署名した受領書をAに渡しており、また、第一審では、自ら密かにAに接触したなどと供述している。さらに、Bの変更登記表には、「顧客に代わってオークションで売ったり、アクセサリーを出品したりする」という営業項目はない。
よって、原審がBの営業項目にアクセサリーの卸売りや小売りがあること、およびCがBの商品の販売担当であったことのみをもって、Cによる係争品の横領がその職務執行行為であると認定したことは、法令違反の恐れがあり、破棄すべきである。
上記判決によれば、被用者の犯罪行為と職務執行とに関連があるか否かについては、雇用関係や営業項目のみに基づいて判断されるわけではないことに注意が必要である。
コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
黒田法律事務所・黒田特許事務所
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
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