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第129回 労災に遭遇した労働者を解雇することができるのか?


ニュース 法律 作成日:2016年1月11日_記事番号:T00061377

知っておこう台湾法

第129回 労災に遭遇した労働者を解雇することができるのか?

 台湾高等裁判所は、2015年11月30日付2014年労上字第4号判決において、労働基準法第13条「労働基準法第59条に規定される医療期間において、使用者は契約を解除してはならない」との規定は、労働者が労災により医療を受け、原労働契約に約定されている業務に従事することができないこと、または元の業務に従事することができない上、他の業務に従事することへの異動を使用者が適法に行っていないことに関するものであると指摘した。

 本件の概要は次の通りである。

 甲は、1996年、乙保険会社に就職し、保険募集業務、保険料の徴収などに関する業務に従事していた。2009年12月、甲は業務執行のため外出した際に交通事故に遭い、そのため、骨折、身体神経障害などの傷害を受けた。甲が数カ月間、関連する治療を受けた後、乙は、甲の身体が正常に出勤できる状態となっていると判断したため、甲に休暇の終了と出勤を求める書簡を送付したが、甲から拒否された。そこで、乙は、労働基準法第12条「正当な理由なく、3日連続して無断欠勤した」との理由により、甲を解雇した。甲は、労働基準法第13条に「使用者は、労災に遭遇した上、治療中の労働者を解雇してはならない」との規定があるため、乙による解雇は不適法であると考えた。また、甲はさらに労働基準法第14条に基づき甲乙間の労働契約を解除し、170万台湾元の解雇手当を乙に請求した。

出勤義務があるか

 高等裁判所は、審理した上で甲全面敗訴の判決を下した。主な理由は次の通りである。

一.労働基準法第13条規定:「労働者が第59条に規定される医療期間(労働者が労災に遭遇したことにより負傷し、または職業病に罹患した場合の医療期間をいう)において、使用者は契約を解除してはならない」とは、労働者が労災により医療を受け、原労働契約に約定されている業務に従事することができないこと、または元の業務に従事することができない上、他の業務に従事することへの異動を使用者が適法に行っていないことに関するものである。労働者が医療を受けた後、元の業務の任に堪える、または他の業務への異動が適法に行われている場合、労働者は労務の提供という給付義務を負うこととなり、これを拒否してはならない。

二.病院による鑑定の結果、甲は治療を受けた後、身体の状況は元の職務を執行するのに十分であったことから、当然、甲は出勤義務を負う。本件において、甲の出勤を乙が求めたことは適法な請求であり、甲が出勤を拒否したために、連続無断欠勤が3日に達したのであるから、当然、乙による甲の解雇は適法である。

 実務上、労災により発生する労使紛争は少なくない。労働者の身体の状況が出勤に適するか否かは、病院の鑑定結果に依拠する必要がある。病院でこのような鑑定を行うにあたっては、医師が労働者の陳述内容のみに依拠して労働者をえこひいきした鑑定結果を下すことがないようにするため、使用者側からも誰かを派遣して参加させるべきことに注意していただきたい。

黒田法律事務所・黒田特許事務所

1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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