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第64回 トランプ氏当選と米台関係


ニュース 政治 作成日:2016年11月18日_記事番号:T00067510

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第64回 トランプ氏当選と米台関係

 共和党のドナルド・トランプ氏(70)が先週8日、米大統領選で当選した。そのアジア政策がどのようなものになるのか、台湾や日本、韓国も戦々恐々と頭をめぐらせている。米国の台湾海峡政策をめぐる論壇では近年、「台湾放棄論」がしばしば持ち上がっている。中国が国力を向上させ、台湾のそれが相対的に低下した今、米国にとって明らかに中国の方が重要性が高いため、台湾をめぐって米中関係を緊張させるのは賢明ではなく、米国は台湾から手を引くべきという主張だ。

 トランプ氏の当選直後、選挙戦で唱えた孤立主義への懸念から、台湾では「米国に見捨てられる」ことへの警戒心が高まった。元国家安全局長の蔡得勝氏は「台湾はトランプ氏にとって価値などないのではないか。『台湾放棄論』が主流になるのか関心を払うべきだ」と訴えた。メディアでも「台湾はアジアの孤児になる」との悲観論が目立った。「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は頓挫し、中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加も困難となった中、蔡英文政権は中国との関係を改善すべきだ」「世界の警察官たることに興味を失った米国は、もはや台湾をサポートしない」といった言説が大学教授やジャーナリストから相次いで示された。

/date/2016/11/18/20news1_2.jpg蔡総統は、民進党の以前の陳水扁政権は大部分の時期が共和党のブッシュ政権と重なり、頻繁に接触を持っていたと関係拡大に自信を示した(中央社)

 昨年8月の訪米時に好待遇を受けるなどオバマ政権との関係が良好だった蔡総統にとって、トランプ氏の当選は驚きだったはずだ。台湾はかねてからTPP加盟を通じた日米陣営との関係強化を狙っていたが困難となり、この点は明らかにマイナス要因だろう。

米中通商摩擦に懸念

 台湾にとってトランプ新政権の登場は、経済面と政治面でそれぞれリスクがある。経済面での最大懸念は米中通商摩擦に巻き込まれることだ。トランプ氏は中国を貿易における競争相手とみて、中国を為替操作国に指定することや、中国からの輸入品に高関税をかけることを主張してきた。しかし中国は台湾企業にとって最大の生産拠点であり、米国に多くの製品を輸出している。トランプ氏が公約どおりに通商面で中国への対決姿勢を強めれば、台湾経済は確実に大きな打撃を受ける。台湾企業はサプライチェーンの再構築や、米国を含む中国以外への製造拠点移転を考えざるを得なくなる。

/date/2016/11/18/20news2_2.jpgトランプ氏(左)とプリーバス氏(中)(中央社)

 政治面では実際に孤立主義政策が取られた場合、中国の勢力拡大によって台湾海峡の現状が揺るがされかねない。ただ、この点において蔡総統が台湾の戦略的価値に言及しつつ、米台関係の見通しについて「基本的に大きな変化はない」と語っているのは注目に値する。米国が自由民主主義擁護や中国の覇権主義抑止の観点から、引き続き台湾の現状を守る姿勢を変えないことを予想しているのだ。

「武器調達の充実に期待」

 台湾にとって有利なのは、伝統的に台湾に友好的な共和党が上院・下院で多数を占めたことだ。トランプ氏を支える同党は今年7月、▽台湾への武器売却に期限を設けない▽台湾への武器売却で中国と事前に協議しない▽台湾関係法の条項を修正しない▽中国に台湾に対する主権を正式には認めない──などの「6項目の保証」を政策綱領に盛り込んだばかりだ。また、トランプ政権の中枢である大統領補佐官に、親台派のラインス・プリーバス同党全国委員長の就任が決まった。昨年を含め台湾には何度も訪れており、過去には「台湾は中国大陸にとって健全な民主主義と経済のモデルだ。米国は引き続き台湾を支持する」という発言をしている。

 トランプ氏は選挙期間中、▽陸軍兵士を49万人から54万人に▽空軍戦闘機を1,113機から1,200機に▽海兵隊大隊を23部隊から36部隊に▽海軍水上艦・潜水艦を276隻から350隻に──といった大幅軍拡に踏み切ることを主張していた。米国にとって眼下の敵はイスラム過激派であろうが、海軍兵力の増強については海洋進出を強める中国が視野にあるのは間違いない。

 こうした中、トランプ政権の誕生は、台湾にとって武器調達の充実を図る大きなチャンスとの指摘が米国の専門家から出ている。レーガン政権時代に国防総省幹部を務めたステファン・ブライエン氏によると、米国は過去25年にわたりF15型やF16型戦闘機などの有力な攻撃的兵器を台湾に供給せず、台湾軍の抑止力は中途半端なものになっていた。しかし、中国封じ込めは米国にとって重要との立場から、トランプ政権は台湾が真に必要な武器の売却に踏み切るのではないかとみている。

 こうしてみると、米台は政治的関係をむしろ強める可能性があり、それは日米を対外関係の基軸と考える蔡政権にとって望ましい展開といえる。トランプ氏が実際にどのようなアジア政策を展開するのかはまだ分からない部分も多いが、台湾が困惑する事態が起きる可能性は低いとの蔡総統の見通しが外れないことを祈りたい。

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