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第50回 警告書の不当発送行為規制に係る「他の事業者」について


ニュース 法律 作成日:2014年5月19日_記事番号:T00050388

知っておこう台湾法

第50回 警告書の不当発送行為規制に係る「他の事業者」について

 事業者が通告書や書簡などの方式で、自己または他の事業者の取引相手または潜在的取引相手に対して、他の事業者が自己の所有する特許権などを侵害しているとの通知を発送する行為については、行政院公平取引委員会(公平会、公正取引委に相当)が公布した「事業者の著作権、商標権または特許権侵害に対する警告書案件に関する処理原則」(警告書処理原則)により規制されている。

事前の権利侵害確認手続きが必要

 具体的には、事業者が裁判所の一審で、特許権が侵害されているという判決が下された場合、または特許権を侵害している可能性がある対象物について専門の機関が特許権を侵害している旨の鑑定報告を行い、警告書などの送付前または同時に、侵害の可能性がある製造業者などに通知し、侵害排除を請求したという権利侵害確認の一連の手続き(権利侵害確認手続き)を行った場合、警告書の送付は、特許法に基づく権利行使の正当な行為に該当する(警告書処理原則の3)。

 反対に、事業者が権利侵害確認手続きを行わず、いきなり警告書を送り、かつ当該行為が取引に影響する欺瞞(ぎまん)または明らかに公平を失する行為であると認めるに足るときは、公平取引法24条に違反するとされている(警告書処理原則の5)。

未特定の警告書送付は違反か

 これに関し、「他の事業者」の解釈が問題になった事件がある。

 具体的には、ある会社(Y社)が、自己の特許権を侵害している「他の事業者」を特定せずに、特許権侵害に関する警告書を別の会社(X社)の取引相手に送ったことが公平取引法24条に違反するかが問題となった。

 本事件の審理の過程は以下の通りである。

 第一審の台湾台中地方法院の2004年8月20日の92年度重訴字第391号判決は、以下の通り判示した。

 Y社の警告書において、Y社が自己の特許権を侵害している複数の事業者を見つけたと記載されているが、侵害者は特定されておらず、X社が侵害者であることも暗示されていない。また、対象製品の市場はX社およびY社を含めて20社以上が参入しており、警告書を受けた取引相手に直ちにX社がY社の権利侵害を行っていること想起させることはないことから、当該警告書の発送行為は競争相手に対して、不当に他の事業者が自己の特許権を侵害しているとの通知を流布し、取引に影響する欺瞞または明らかに公平を失する行為であるとは認められない。

 一審判決を受けてX社は控訴したが、台湾高等法院台中支所(07年1月2日の93年度重上字第100号判決)は一審の判決を維持し、X社の控訴を棄却。控訴審判決を不服としたX社は最高裁に上告した。

 最高裁判所の08年4月17日の97年度台上字第746号判決は具体的な理由を付せず、高裁判決の理由に食い違いがあることを理由に控訴審判決を破棄して事件を台湾高等法院台中支所に差し戻した。

 差し戻し審(台湾高等法院台中支所の08年12月16日の97年度重上更(一)字第20判決)では、以下の通り判示して、Y社による警告書の発送行為に対して、差し止めを命じた。

実害が出れば違法

 警告書処理原則の5における「他の事業者」とは、社会通念上、警告書の内容が、ある事業者が特許権侵害を行っている可能性があることを取引相手に想起させれば足りる。本件においては、警告書を受領したX社の取引相手の中で、実際にX社に宣誓書の提出を要求し、X社がY社の特許権侵害に関わっていないことを保証させた上で、X社との取引を継続した会社が存在した。従って、Y社が警告書処理原則に従った権利侵害確認手続きを行わず、いきなり警告書を送った行為は、取引に影響する欺瞞または明らかに公平を失する行為であると認められ、公平取引法24条に違反する。

 Y社は当該判決を不服として、最高裁に上告したが、棄却された(最高裁判所の10年4月22日の99年度台上字第679号決定)。

 権利侵害確認手続きを行わずに、競争相手の取引相手に、自己の特許権が侵害されているとの通知を発送する行為は、侵害者を特定していない場合でも、当該通知を受領した者に特定の事業者が権利侵害を行っている可能性があることを想起させるときには、不公平な競争行為と認定されることに注意する必要がある。 

コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

黒田法律事務所・黒田特許事務所
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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尾上由紀弁護士

尾上由紀弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

早稲田大学法学部卒業。 2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

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