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第55回 従業員に対する適法な処罰の方途


ニュース 法律 作成日:2014年6月30日_記事番号:T00051218

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第55回 従業員に対する適法な処罰の方途

 台中地方裁判所の2014年3月28日の「13年度労訴字第108号の判決によれば、労働基準法第70条第6号、第7号により雇用主は会社の就業規則において懲罰事項を定めることが許されているが、雇用主の懲戒権は法律の制限を受け、懲罰の内容は比例原則などの原則に合致していなければならない。

 本件の概要は以下の通りである。

 甲は1983年から乙銀行に雇用され、07年6月から乙の高級職員となった。主な業務内容は債務者に対する督促で、毎月の賃金は4万8,470台湾元であった。10年9月、乙は「甲個人が他の複数の銀行から借りている未弁済の期限到来債務が約200万元に達しており、乙の就業規則第18条第5号の規定(「金融機関からの借入金または保証人となっている金融機関からの借入金を、弁済期限を3カ月経過しても弁済していない場合、乙の従業員となることはできない」)に違反しており、乙ののれんを損なっている」として、甲を高級職員から中級職員に降格し、賃金も毎月4万8,470元から3万1,820元に減給した。これに対し、甲は乙の処分を不服としたため、乙を被告として、10年9月から13年9月までの甲の降格期間の賃金、賞与などの差額、計約90万元を補足して支払うよう要求した。

甲の行為が乙にもたらす影響は?

 裁判所は審理の上、乙による降格処分は違法であると判断し、甲の全面勝訴とする判決を下した。裁判所の主な判決理由は以下の通りである。

1.労働基準法第70条第6号、第7号により雇用主は会社の就業規則において懲罰事項を定めることが許されているが、雇用主の懲戒権は法律の制限を受け(例:労働基準法第12条の解雇事由)、懲罰の内容は明確性の原則、比例原則、二重処分禁止などの原則に合致していなければならず、また、処罰の手続きは合理的かつ正当なものでなければならない。

2.甲は他の銀行に対する期限到来債務を未弁済であるが、これは甲個人の金銭貸借関係であり、必ずしも銀行ののれんを損なうものではなく、また、乙も、甲個人の負債が乙の営業に対しいかなるリスクまたは損失をもたらすか挙証していない。

3.乙の就業規則の他の規定によれば、乙は従業員に対し「降格処分」より軽い処分を行う場合でも、当該従業員の行為が乙に損害をもたらすことについて具体的な証拠を提出しなければならないが、本件において、乙は甲の負債が乙にどのような損害をもたらすかを証明せずに乙を降格処分としており、乙の処罰は比例原則に合致していない。

 実務においては、雇用主の多くが就業規則において適法、適切な処罰規定を定めていなかったことにより従業員に処罰を行っても裁判所に処罰が無効であるという判決を下されている。よって、外国の企業は既存の懲罰条項の適法性、妥当性を再検査し、または外部の法律の専門家に検査を依頼すべきである。 

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。

黒田法律事務所・黒田特許事務所

1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
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蘇逸修弁護士

蘇逸修弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、法務部調査局に入局。板橋地方検察署で、検事として犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などの業務を歴任。2011年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

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