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第52回 相場操縦行為について


ニュース 法律 作成日:2014年6月9日_記事番号:T00050788

知っておこう台湾法

第52回 相場操縦行為について

  2013年8月22日の台湾最高裁判所13年度台上字第3448号判決において、同一銘柄に対当する買い注文および売り注文の一連の発注が行われたとしても、有価証券の売買を誘引する目的を持たなければ、証券取引法第155条の相場操縦行為に当たらないとされた。

 本件の概要は以下の通りである。

 証券取引法155条1項5号の規定によれば、特定の有価証券の売買が活発に行われているとの誤解を他人に生じさせる目的をもって、同一人が自己または他人名義で同一銘柄について、売り注文と買い注文を連続して大量に行い、自己の注文を対当させる行為は、いわゆる「対当売買」と呼ばれる相場操縦行為の一つとして、禁止されている。

 しかし、証券会社の営業担当である被告Yは、T社株式について、親族名義の証券口座を使って、信用取引および現物取引により、成り行き買い注文を連続して行い、高値で約定させたり、自己の売り注文と買い注文を対当させるなどの方法により、06年9月8日に合計121万3,000株を買う一方、合計215万5,000株を売るなどした。

 売買対当数量は81万5,000株で、Yは4万5,521台湾元の純利益を得た。

権利移転目的でないため有罪

 台北地方裁判所は一審で以下の通り判示した(11年2月1日の台湾桃園地方裁判所09年度台上字第1074号判決)。

 Yが売買双方の当事者となり、同一の有価証券について一日に売りと買いの注文を連続して行い、81万5,000株の自己の注文を対当させたことは、客観的に「対当売買」に該当する。そして、Yが実際に権利の移転を目的とせず、同一銘柄に売り注文と買い注文を出し、自己の注文を対当させることは、明らかにYが当該株式の売買状況に関し、活発に取引が行われているかのように誤解させる意図を持っているということができる。

 従ってYの行為は、証券取引法155条1項5号で禁止されている相場操縦行為に該当するとして、Yは有罪とされた。

信用取引の両建ては対当売買か

 Yは地裁の判決を不服として、高裁に控訴した。12年12月18日の台湾高等裁判所11年度金上訴字第13号判決は、以下のように判断して、一審の有罪判決を破棄し無罪とした。

 信用買いと信用売りを同時に行う両建ては、1日に何度も同じ銘柄で取引を行うことができ、売り建て玉と買い建て玉の差として計算され、リスクヘッジとして有効な場合もある。両建てが証券取引法に禁止されていない以上、信用取引で同一銘柄を売り・買いの両建てとしている場合、たとえ自己の注文を対当させたとしても、意図的に対当売買が行われると断定することはできない。

 また、有価証券の売買が活発に行われているとの誤解を他人に生じさせる目的とは、同一銘柄の売りと買いの注文を同時に出し、取引が活発に行われているように見せかけて、他の投資家を誘い込み、株価のつり上げを図る目的をいう。

 しかし、Yは1日に121万3,000株の買い注文と215万5,000株の売り注文を出し、そのうち81万5,000株の自己の注文を対当させたが、これらの取引は証券取引監視制度における異常取引の基準を満たしていないため、Yが対当売買を行い、取引が活発に行われているように見せかけて他の投資家を誘い込んだとは言い難い。

 従ってYの行為は、証券取引法155条1項5号で禁止されている相場操縦行為に該当しないとされた。

異常取引でなければ該当せず

 検察官は高裁の判決を不服として、最高裁に上告した。13年8月22日の最高裁判所13年度台上字第3448号判決は、以下の通り判示した。

 証券取引法155条1項5号で禁止されている「対当売買」の主観要件としては、他の投資家を誘い込み、株価のつり上げを図る目的が必要である。

 また、「対当売買」の客観要件としては、短期間に同一銘柄に売り注文と買い注文を頻繁、かつ、大量に連続して行っていることが必要である。

 客観的に同一銘柄での対当売買が行われたとしても、証券取引監視制度における異常取引の基準を満たしていなければ、取引が活発に行われているように見せかけて他の投資家を誘い込んだという目的をYが持っていることを立証することはできないため、相場操縦行為に該当しない。

 原判決の理由が多少不当であっても、結果に影響を及ぼすことはないとの理由で、検察官の上告は棄却された。

 台湾の証券取引法は、相場操縦行為の規制において、有価証券の売買を誘引する目的という主観要件を設けていないが、裁判実務では、そのような不文の要件があるとして、規制対象を縮小解釈している点は注目すべきである。

コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

黒田法律事務所・黒田特許事務所

1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
http://www.kuroda-law.gr.jp/ja/tw/

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尾上由紀弁護士

尾上由紀弁護士

黒田日本外国法事務律師事務所

早稲田大学法学部卒業。 2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

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